表題番号:2012B-016 日付:2013/04/05
研究課題近代民法の原型とその変容ー訴訟法を内包する民法とその変容の視角からー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 特任教授 水林 彪
研究成果概要
 1.本特定課題研究は、私自身が以前に発表した次の2論文の延長線上に構想されたものであった。「近代民法の本源的性格ー全法体系の根本法としてのCode civilー」(『民法研究』第5号、2008年)、「近代民法の原初的構想ー1791年憲法律に見えるCode de lois civilesについてー」(『民法研究』第7号、2011年)。
 2.以上の研究の過程において、私は、フランス型の民法が、わが国の法学が言う意味での「実体法」のみならず、「訴訟法」をも内包するものであることに注目するにいたった。それが、2012年度の特定課題Bの研究である。
 わが国の法学およびその前提をなしたドイツのそれにおいては、訴訟法は、裁判所という国家権力機関が直接に関与する領域であるために、訴訟法は「公法」と観念され、私人間の権利義務関係を規律する「私法」としての民法とは次元を異にすると考えられている(ドイツ・日本的公私法二元論)。しかるに、フランスにおいては、民事法は、究極において裁判所における紛争の解決を目指すものであり、そのような意味において、民法も広い意味での訴訟法の一環として意識されている。そのような広義の民事訴訟法が、(1)法廷における法律家の活動部分(民事訴訟法の根幹部分)と、(2)法廷内外における手続とに二分され、(1)が民法典において、(2)が民事手続法典(通常、民事訴訟法と訳される)に規律されたのであった。(1)は、①私人間の権利義務関係を定めるいわゆる「実体法」と、②「実体法」によって法的に評価されるところの「事実」を証明するための「証拠法」との二本立てである。そして、この①②の総合が、法廷における法律家の実践となるのである。そして、以上のような考え方を最も直截に体系的に提示したものが、ボアソナードに民法典草案なのであった。ここには、財産編、財産取得編、債権担保編などの実体法のほかに、証拠編が存在した。
 以上のような観点からのフランス型民法論は、現在準備中の著作『近代憲法・民法史論』うちの一つの章「訴訟法としてのフランス型民法」において、論じられる予定である。
 3.なお、上記論文と密接に関連するところの、同書に収載予定の「「憲法と経済秩序」の近代的原型とその変容ー日本国憲法の歴史的位置」論文の方がいちはやく脱稿し(これは、2011年度特定課題Bの研究成果でもある)、早稲田大学法学学術院GCOEの機関誌『季刊 企業と法創造』9巻3号、2013年2月)に発表する機会を得た。