表題番号:2012B-006 日付:2013/03/21
研究課題東アジア地域における経済発展の変容と政策形成
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 内藤 巧
(連携研究者) 政治経済学術院 教授 石井 安憲
(連携研究者) 政治経済学術院 准教授 金子 昭彦
(連携研究者) 政治経済学術院 教授 上田 貴子
(連携研究者) 政治経済学術院 教授 小西 秀樹
研究成果概要
本研究は,急速な経済発展が一段落し新たな局面を迎えた東アジア地域における政治経済的相互依存関係および国内政策の変容を,理論,実証,現地調査によって解明し,当該地域が今後目指すべき協力体制や制度構築のあり方を検討することを目的とした.以下の研究結果を得た:

・イートン・コータムの多数国連続財リカード・モデルを多数国AKモデルと組み合わせ,貿易自由化が時間を通じて国々の成長率や貿易の外延に与える 影響を調べた.数値実験により,貿易自由化の長期的効果が静学的イートン・コータム・モデルに対応する短期的効果と全く異なることが示された.
・公的企業の民営化を遂行している体制移行国からの企業が国際市場でダンピングを行うモデルを構築し,当該移行国の最適民営化率とダンピングの関係,および,この最適民営化率が受け入れ国のアンチダンピング政策に与える効果等を分析し,幾つかの新しい結果を提出した.
・De La Croix (1996)で提示された習慣形成モデルに出生率を内生化するように拡張した.主要な結論については以下の通りである.まず,新古典派成長モデルにおいて,習慣形成の程度が強いほど定常状態における出生率が下がることが示された.これは,通常の所得効果と代替効果の他に,「習慣形成効果」と呼べる効果が存在するためである.また,内生成長モデルでは習慣形成の程度が強いほど成長率も出生率も下がることが示された.
・日本・韓国・台湾の家計個票データを用いて,親子間の所得連関への子への教育投資の関与の分析を行った.推定結果から,親子間の所得連関の程度は,欧米先進国に比較して中程度の連関であると示されている.いずれの国においても,所得連関の30-50%程度は子への教育投資によると計測された.
・国内の輸入競争産業と政府の間の交渉に焦点を当てた自由貿易協定締結の政治経済モデルを構築し,両者の間で不完全な所得移転しか行われない場合,国内での交渉力の弱い政府の方がむしろ外国と自由貿易協定を締結しやすいことを明らかにした.
・消費の外部性が産業固有に存在するとき,消費者の習慣特性によって貿易政策の効果が異なることを,収穫逓増技術を仮定した一般均衡モデルを構築して明らかにした.
・中国オンショアマーケットの人民元対ドルレートを利用して,人民元に対する切上げ圧力についてSTARTZモデルを利用して分析を行った.推定結果から,高頻度データを利用した場合,インプリシットバンド幅は中国中央銀行よりアナウンスされたバンド幅よりも大きくなっており,かつアナウンスされたバンドを超えても依然としてGARCH性が残っていることがわかった.
・生産的消費仮説をBenhabib and Farmer(JET, 1994)モデルに導入して新たなモデルを構築し,発展途上国が辿りうるマクロ均衡動学を解明した.特に,「異時点間消費の補完関係」が生じる場合,標準的な成長モデルと異なり,資本蓄積過程で消費が減少するような移行動学が生じること,定常均衡点の周りに不安定な閉曲線が分岐する場合,初期資本ストックが少ないと市場均衡経路が存在せず,市場経済制度が確立されないことが導かれた.
・混合寡占のモデルにおいて企業の経営者委任と政府の輸入関税政策の相互依存関係を検討し,政府と企業のどちらが先に行動するかによって三つのケースに分かれて考察した.自国公企業の民営化が最適な関税政策,そして外国私企業の行動の手番に影響を与えることを明らかにした.