表題番号:2012B-005 日付:2013/04/10
研究課題中国・政治社会の変容と「抗議型維権活動」拡大のメカニズム
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 唐 亮
研究成果概要
維権運動とは政府や企業による権利の侵害に対する大衆の権利回復闘争である。一九九〇年代半ば前後、維権運動は主として女性、児童、老人や消費者の権利の保護を中心とした。その後、維権運動は次のように拡大してきた。第一に、維権の領域は経済的権利から、教育、生活保障、社会正義などの社会的権利、言論自由や選挙権などの政治的権利へと広がり、参加者は女性、老人、消費者から出稼ぎ労働者(農民工)、lay-off、失業をさせられた元国営企業の労働者、定年退職者、失地農民、立ち退きの住民、マンションなどの所有権者、エイズ患者、直訴者(上訪人員)、民主化活動家へと拡大してきた。次に、人々は主として合法的権益、つまり現行の法体系に定められる権利の保護を中心に求めているが、法改正による権利の拡大を訴える場合もしばしばである。さらに、人々は司法制度の活用や政府機関・メディアへの働きかけを維権の手段として使うほか、デモ、ストライキ、座り込み、請願、集団直訴、集会、交通妨害、暴動などの対抗型手段を頻繁に使っている。
政治社会の変容、特に以下の要素は維権運動の拡大につながっている。第一に、国民の自立性、権利意識、参加意識の向上である。市場経済化、グローバル化、情報化、価値の多様化が進み、人々の政治意識が徐々に高まり、下から政府に権利の実現を訴え、国家などの侵害から自らの利益を守ろうとする。第二に、政府の変容である。中国政府は法律、政策の範囲内という条件付きで維権活動の正当性を認め、各級の労働組合、婦人連合会および消費者協会など官製の団体が関連の「維権」活動を支持し、世論が維権行動を高く評価する中で、維権は今や政治意識の覚醒、市民社会の成長および大衆政治参加のシンボルとして徐々に定着し、大きな合法性、正当性を得た。また、抗議型の維権活動に対し、政府は安定重視の立場から事態の鎮静化を図らなければならないが、従来と違って露骨な抑圧的手段をある程度控えざるを得ず、金銭補償によって問題を解決する傾向が強まっている。第三に、ネット社会の出現である。今まで、中国政府は結社の自由や報道の自由を制限し、不満の連携・動員を厳しく制限してきたが、ネット社会が進む中で、インターネットは不完全でありながらも、結社の自由、報道の自由の代替手段としての役割を果たしている。具体的に、新興メディアがいち早く事件を伝え、社会の暗部を暴露し、鋭い政治批判を展開することで、不満を共有化させ、抗議活動の組織や与論の動員を行っている.