表題番号:2012A-899 日付:2013/03/25
研究課題所沢キャンパスにおける光化学オキシダント関連成分の挙動把握の試み
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 准教授 松本 淳
研究成果概要
①研究の背景と目的:
 国内では大気中の光化学オキシダント(主にオゾン)の濃度上昇傾向が報告され、その挙動把握と対策が急務であり、オゾンとその前駆体(窒素酸化物や揮発性有機化合物)の挙動把握が重要である。最近特に、植生など自然発生源からの放出成分が、自動車排ガスなど人為放出成分と共存する際の挙動が注目されている。代表者はこれまでに、オゾン・窒素酸化物・揮発性有機化合物の高度観測法を研究・開発してきた。代表者が着任後に大気環境研究を始めるにあたり、本拠となる所沢におけるオゾンと関連成分の動態把握がまず必要となる。そこで本研究では、これまでの経験や機器を活用し、所沢の大気中オゾンやその前駆体の観測を実施し、大気微量成分の基本的な特性の把握を目指す。特にオゾンについて、可能な範囲で連続的に観測を続け、各季節ごとに典型的な日変化を把握する。本研究は、所沢という地理的条件を最大限に活用し、都市と自然が共存する郊外地域にて大気観測を実施して、光化学オキシダントの挙動を解明を進めつつ、今後の大気環境研究を進めるうえでの基盤を確立する点が、特に有意義である。
②研究の方法:
(2-1)大気観測の実施・・・所有する計測装置を活用し、大気中のオゾンを自動連続観測した。測定器は研究室内に設置して安定に運転しつつ、大気試料をテフロン配管と継手を経由して屋外から測定器まで導入した。データは、ロガーや既存PCを活用して取得・記録した。
(2-2)観測結果の解析・・・本研究で得られた観測データに関して、(a)オゾン日変化パターン、(b)オゾンの季節変動、(c)近隣の公開データとの比較、(d)大気光化学反応の検証、について解析した。以上を通して、所沢キャンパスでのオゾンを中心とする大気化学的状況の初期的な把握を目指した。
③研究の結果と考察:
(3-1)大気観測概況・・・2012年6月20日から3月18日まで、所沢キャンパス100号館実験室の外気について、オゾン濃度の自動連続測定を実施した。観測では1分間隔でデータを記録しつづけた。得られた「生」の1分値データは約38.7万点であったが、いくつかの欠測期間や不具合(夏期の停電1日間、年度末の実験棟屋外補修工事に伴う試料採取不可、等)を考慮して異常値等を除外して解析した結果、60分平均値としての正味の測定データ数は6070点であった。工事等に左右されない安定的な連続観測の実現は、今後改善すべき課題である。
(3-2)観測結果概況・・・観測期間を通して、日中(午後2時頃)にピークを持ち、夜間(特に冬季)に低濃度になる、都市郊外大気に典型的なオゾン濃度の日変化パターンを実験的に確認した。日射が強く光化学活性の高い「夏季」には、「秋季」「冬季」と比較して、日中オゾン濃度の最大値が高かった。なお、本研究では、一般的にオゾン濃度が高い「春季」は、観測していないためデータを得られなかった。所沢キャンパスが、東京近郊の都市郊外大気でのオゾン研究に十分適用可能であることを示唆した。近隣の公開データ(環境省「そらまめ君」、1時間値)と所沢キャンパスのオゾン観測結果を比較したところ、最寄の「所沢北野」観測局と本観測結果は、全体的によく一致した(60分値での相関係数0.90、回帰直線・・・公開データ=0.95x早大観測値+1.5ppbv)。また、周辺の観測局(「東大和」「狭山」「入間」「中富」)などとも比較的良い相関・一致を示し、所沢キャンパス周辺10km程度までの範囲ではオゾンは似た挙動を示すことも確認された。これら観測局の中で中心に位置する所沢キャンパスは、近隣のオゾン現象を調べるのに適していることが示された。なお、本研究では、窒素酸化物NOxの観測は準備が間に合わなかったため、オゾンとNOxの同時観測と相関解析などは、今後の課題である。