表題番号:2012A-878 日付:2013/04/10
研究課題量子観測で迫る量子論の基礎と量子情報
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 湯浅 一哉
研究成果概要
本研究課題の目的は,量子論の世界の不思議が際立つ「量子観測」をキーワードに,量子論の基礎と量子情報技術に関わるテーマに取り組んで,量子論の本質に迫り,量子性を活用する量子技術に寄与することにあった.量子論の本質が凝縮されている干渉現象を追究して「量子コヒーレンス」に対する理解を深め,「量子系制御」の独自のアイデアを発展させて量子情報技術に新たな手法を提供し,「量子計測」の話題への取り組みを通じて量子性の新たな可能性を見出すことをテーマに研究を展開して,以下の成果を得た.([…] は研究成果発表欄の研究業績に添えた番号を参照する.)

■量子コヒーレンス
1.フランソン干渉計を利用してクーパー電子対の 2電子間相関長や重心運動のド・ブロイ波長を計測できることを示した [6].
2.量子状態の量子性 (非可換性) を,干渉計を組み合わせてとらえる方法を提案した [1,5].
3.2つの大自由度量子系間の典型的エンタングルメントに見られる相転移を,エンタングルメントの指標としてエントロピーを採用して解析し,他の簡易的な指標の場合よりも相転移が滑らかになることを明らかにした [3].
4.BCS状態にある2つの独立なフェルミ原子気体間の干渉を議論し,もともと位相相関の無い原子気体同士でも,原子気体を撮像する観測によって原子気体間の相対位相が確定し,コヒーレンスがもたらされることを示した [14].

■量子系制御
5.多重散乱の干渉効果を利用して書き込みと読み出しができる量子メモリを提案した [4].
6.観測の繰り返しによる量子状態生成の独自の手法を支える量子写像のエルゴード性・混合性に関する数学的基礎を整備した [2].
7.観測の繰り返しによる量子状態生成の独自の手法をマッハ・ツェンダー干渉計の設定に適用し,エンタングルメント生成のスキームを提案した [10,12].
8.観測の繰り返しによる量子状態生成の独自の手法に対する環境系の影響を検討し,手順を工夫することでスキームを頑強にできることを示した [11].

■量子計測
9.多数回試行が想定される量子論にあって1回の試行で得られる観測データから系のパラメータを推定する方法を示した [8].
10.同種粒子の識別不可能性に起因する多粒子干渉効果で計測精度を向上できることを示した [9,13].