表題番号:2012A-828 日付:2013/04/04
研究課題帝政初期ローマにおける帝位継承と記録の断罪
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 助手 福山 佑子
研究成果概要
 古代ローマでは、ダムナティオ・メモリアエと呼ばれる処分が行われていた。これは、当該人物の死後、その人物に関連する記録/記憶を断罪し、公の場から抹消するというものであった。本研究では、これまで行なってきたダムナティオ・メモリアエの基礎研究を踏まえながらも、公的な領域における処分に主眼を移し、皇帝を取り囲む政治抗争の中で記録の断罪がいかに利用されたのかという点に着目して検討を行った。
 これに際し、本研究助成を利用して、8月には執政官や宗教祭祀団の暦表、皇帝関連碑文が多数収録されているローマ国立博物館4館において資料撮影を行ったほか、ベルリンのフンボルト大学で、関連する文献史料の複写等を行った。8月27日から31日には、ベルリンで開催された第14回ギリシャ・ローマ国際碑文学会(XIV Congressus Internationalis Epigraphiae Graecae et Latinae)に参加し、ダムナティオ・メモリアエや記録の抹消を扱ったS. Benoist, C. Rouecheらの研究報告を聞いたほか、新発見史料や新たなデータベース構築についてなど、様々な研究テーマの報告から多くの知見を得た。
 これらの調査を経て、2013年3月に刊行された『ヨーロッパ・「共生」の政治文化史』において、「クラウディウスによる『共生』の模索とカリグラの記憶」と題した論文を執筆した。これは、カリグラの暗殺からクラウディウスへの帝位継承の際に行われた記録/記憶の破壊を取り上げたもので、皇帝に対して行われたダムナティオ・メモリアエの先駆例とされる事例を、文献史料と碑文史料を組み合わせて検討したものである。特に、碑文史料を時系列に整理した結果、当初はカリグラの記録/記憶を擁護する姿勢を見せたクラウディウスが、徐々にカリグラの記録/記憶に対する攻撃を強めていく過程を明らかにすることができた。またこの時点では、皇帝の死の直後に記録/記憶の破壊が1つの処分として行われたわけではなく、漸次的に破壊行為や「悪帝」としてのイメージ形成が行われていった点を明示できたことも、今後のダムナティオ・メモリアエ研究において1つの布石になると考えている。