表題番号:2012A-821 日付:2013/05/12
研究課題19世紀フランスの医学言説における身体・テクノロジー・女性:ミシンの歴史を通して
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 准教授 橋本 一径
研究成果概要
本課題が明るみに出そうとするのは、19世紀にフランスで発明されたミシンが、経済や産業の領域を超えて、文化や医学など、広範な領域にまで影響を及ぼしていたということである。とりわけ本課題が着目するのは医学的な問題である。19世紀の医学文献においては、足踏みミシンの使用が女性労働者の身体に与える悪影響が取り上げられることがあったが、こうした議論はテクノロジーと身体の関係をめぐる今日的な問題(たとえばパソコンの使用による肩こりや疲れ目など)の嚆矢と言えるものであり、またそこにはジェンダー論や身体論、科学技術社会論などの課題が集約されていることがわかる。
しかしながら、この分野についての先行研究は非常に乏しく、特にミシンの歴史そのものについても、日本はもちろん欧米でも決定的と言える研究は不在であるのが実情である。したがって本年度は、ミシンの発祥の地であるフランスの国立図書館において、ミシンの歴史に関する文献の調査を集中的に行った。19世紀に刊行されていたミシンの製造・販売業者向けの業界紙(Journal de la machine a coudre)など、当地でしか閲覧のできない多くの資料を参照することができ、有意義な調査を行うことができた。とりわけ大きな収穫だったのは、1878年に刊行されたブルボン夫人なる人物の手による戯曲『ミシン』を発見したことである。ミシンに夢中になる妻と、それに苦言を呈する夫を主人公とするこの戯曲は、当時のブルジョワ家庭においてミシンが果たしていた役割を垣間見せてくれる点で、非常に興味深いものである。
この調査に先立って、「医者と女性とミシン――19世紀フランスの医学言説における機械と身体」と題する発表を行い、問題の射程を素描した(第五回早稲田表象・メディア学会)。調査の結果を含めた全体的な研究成果は、2013年度中に執筆を終え、2014年までに単著として刊行の予定である。