表題番号:2012A-818 日付:2013/04/12
研究課題民事訴訟制度の利用しやすさについての考察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 菅原 郁夫
研究成果概要
 民事訴訟法の研究者が中心となり、本研究分担者が代表を務める民事訴訟制度研究会は、2011年8月に民事訴訟利用者調査を実施し、その報告書(民事訴訟制度研究会編『2011年民事訴訟利用者調査』(商事法務 2012年))を2012年12月に発表した。この研究では、そのデータおよび2006年に行われた同様の調査の結果を用い、民事訴訟の利用しやすさについての促進要因に関する分析を行った。
 その結果、民事訴訟の利用しやすさに深く関係すると思われる訴訟に要する費用と時間に関しては、2006年から2011年の間に改善が見られることが解った。たとえば、時間と費用の予測の点であるが、時間に関しては、2006年調査の場合,予想がついたものが40.0%で,「全く予想がつかなかった」ものが60.0%であった。今回の調査の方が約6ポイント予想のついた回答者の割合が増えている。また、費用に関しては、2006年調査の回答は,何らかの形で予想が成り立っていたものは51.6%で,全く予想がつかなかったものが48.4%であったのと比較すると,何らかの形で予想のつくものの割合が10ポイント近く増えている。このことが影響したと思われる事柄として、2006年調査と比較した場合,訴訟の原因の生じた時期からの期間は1.8年と2006年の2.4年からかなり短くなっている。
 また、こういった変化の背後には、情報源としての弁護士の働きがあるように思われる。たとえば、訴訟前の当事者の行動に関し、弁護士への相談は,2006年調査ではその割合が57.4%であったものが、それに相当する値が、今回は60.2%と増加している。また、これらの予測の情報源に関して、2000年調査と比較した場合、費用では約10ポイント、時間で約50ポイントの上昇が見られる。
 また、実際にかかった時間と費用に対する評価においても、時間に関しては、2006年調査と比較した場合,「どちらともいえない」の割合が下がり(2006年:23.8%),「長い」の割合がやや増えている(2006年:41.5%)が、この「長い」の内訳を見た場合,増えたのは「やや長い」(2006年:18.6%,2011年:22.8%)の方で,「長すぎる」の割合はむしろ減少している(2006年:22.9%,2011年:21.4%)。評価に好転傾向が見られるといってよかろう。また、費用においては、総額の評価に関しては,「高い」とするものの割合が43.1%で,2006年調査から5ポイント弱下がっているし(2006年:48.3%)、弁護士費用に関しては同割合が6ポイント下がっている(2006年:40.8%)。
 しかし、こういった評価の改善にもかかわらず、制度評価に関しては、2006年調査と比較した場合,「紛争解決の役目」の否定回答の減少(4.5ポイント),「制度の利用しやすさ」の否定回答の減少(3.4ポイント)といった否定回答の減少といった変化は見られたものの、肯定回答の割合に好転が見られたわけではない。むしろ、「裁判制度の満足度」に関しては、肯定回答の減少(3.4ポイント)している。
 以上の点からすれば、これまで重点的に改革が試みられてきた民事訴訟に要する時間と費用の点に関して、その改革の成果が確認できたといえよう。しかし、時間や費用の点が訴訟を躊躇させる大きな要因であり、それらに関する情報が提供され、時間と費用に関する評価それ自体が改善されつつあるにもかかわらず、制度に関しては、そういった改善の結果が未だ十分に反映されていないようにもみえる。こういった点の原因解明には、各項目の肯定否定評価の割合のみに拘泥することなく、その評価根拠や構造を推測してみることがより重要である。今後、そのような評価の構造分析を中心に2次分析を進める予定である。
 また、こういった民事訴訟の利用者の評価の状況と、訴訟を利用していない一般市民の評価との関係を確認することも重要と思われる。この後者の点に関しては、幸い2013年度科学研究費補助金研究が採用されたので、新たに調査を行い、比較分析を行う予定である。