表題番号:2012A-604 日付:2014/04/22
研究課題面不斉ホスホニウム有機触媒の設計・合成とその触媒機能
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 鹿又 宣弘
(連携研究者) 理工学総合研究センター 招聘研究員 小川熟人
研究成果概要
面不斉を持つ有機化合物は新しい不斉素子として注目されており,ここ数年の間に急速に研究が進んできが,面不斉固有の機能を発揮する実用的物質の開発例は極めて少ないのが現状である.本研究では,面不斉シクロファンを複数集合させた「ホスホニウム有機触媒」を創製し,この全く新しいタイプの新規不斉有機触媒の機能発現と有機合成化学への応用を研究目的として研究に着手した.特に,面不斉素子として単環性シクロファンを用い,面不斉有機触媒として提案する①不斉相間移動触媒および②不斉リンイリド触媒の創製と機能創出について検討を行った.
我々がこれまでに開発した面不斉シクロファン合成法に従い,アンサ鎖としてデカメチレン鎖を有する光学活性ベンジルアルコールから対応するクロロ体およびブロモ体を合成し,三塩化リンとの反応で3つのシクロファンユニットを持つ面不斉ホスフィンの合成を検討した.しかしながら,種々の反応条件を用いて検討を加えたものの,目的とするホスフィン誘導体は得られなかった.そこで,ベンジルブロミドをモデル基質とし,ヨウ素を活性化剤としてに用いた条件で,THF溶媒中60℃にて反応を行ったところ,所望の反応が進行し,3級ホスフィンであるトリベンジルホスフィン,および4級ホスホニウム塩であるテトラベンジルホスホニウムの生成を質量分析により確認した.そこで,反応溶媒をエーテルに代え,100mgスケールにて同様の反応を行ったところ,4級ホスホニウムのモデル化合物であるテトラベンジルホスホニウムブロミドを17%の収率で単離することに成功した.そこで,シクロファン構造を有する面不斉ベンジルブロミドを基質として三塩化リンと反応を行ったところ,低収率ではあるが,目的化合物である面不斉4級ホスホニウム塩の生成を初めて確認することに成功した.現在これらの反応条件の最適化を検討中である.
一方,不斉リンイリド触媒の反応研究として,トリフェニルホスフィンとハロ酢酸エステルから誘導される4級ホスホニウムをモデル触媒として用い,種々塩基存在下に電子不足アルケンであるマロノニトリルとの反応を行ったが,この系では期待した触媒活性を示さず,目的とするシクロプロパン化合物は得られなかった.このことから,二つ目の目的としたリンイリド触媒による不斉シクロプロパン化反応の開発は困難であると判断し,面不斉触媒による同様の検討は中断することとした.
以上の結果より,本研究では研究目的の一つである面不斉シクロファンを4つ導入した4級ホスホニウム塩の生成を初めて確認することに成功した.今後は本触媒の効率良い合成法の検討を行うとともに,触媒機能の有無について検討する予定である.