表題番号:2012A-601
日付:2014/04/11
研究課題地方都市の劇場をめぐる基礎的研究
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 文学学術院 | 教授 | 児玉 竜一 |
- 研究成果概要
- 「地方都市の劇場をめぐる基礎的研究」として、来たるべき総合的調査のための方法、あるいは集中的に調査すべき対象を絞り込みという、所期の目標はおおむね達したといえる。
まず、地方都市劇場をめぐる一次資料の残存状況をめぐる調査について記す。
近畿、東海、九州地方の県立図書館への調査を重ね、演劇関係資料の扱いには、当然のことながら、各県別、それぞれの図書館別に、大きな差異が存することをあらためて確認した。とりわけ、戦災被害の大きかった図書館では、戦前の一次資料について全く所在を把握していない機関もある。かたや、浜松市立図書館のように、演劇関係にきわめて強い非常勤の司書が貴重な資料を開陳してくれる場合もある。その差は、演劇というジャンルの今後の不沈を象徴するのではないかと思われるほどであるが、概ね結論としては、個別に県立図書館等に頼るのは、一次資料よりもむしろ二次資料に絞るべきであるという手応えを得た。これに代わって一次資料を集積している国立機関を徹底的に調査すべきであるというのが、次の段階のために明快にわかったことで、今回はその一つである東京文化財研究所(独立行政法人)が所蔵する番付のデジタル化を終えた。同所の飯島満の協力を得て撮影・整理を終えた同所所蔵の番付は、現在知られているところでは、最も多くの割合の地方の番付を含むコレクションである。ただし、これは近世期のものがほとんどで、近代期以降を射程に収める本研究からは付随的成果というべきものである。近代期の番付の本丸は国立劇場で、近代歌舞伎年表編纂のために収集した番付写真が死蔵されている。これを次の総合的調査にあたっては、専ら対象とすべきと見定めることができた。
地方独自の資料としては、番付などの一次資料よりも、地方誌においてまとめられた、地方独自の文化史叙述を収集すべきであることも確認した。従来の全国劇場の網羅的調査では、『全国主要都市劇場略史表』(国立劇場・私家版)があったが、これが刊行された昭和53年以降、昭和と平成の境目あたりに地方誌刊行の隆盛がもう一度訪れており、それらの成果を収集することができた。これも担当者の裁量によるところが大きいため、劇場や映画館に割かれている紙数は一定ではないが、より詳細な劇場史を、概略としてつかむためには、さらに網羅的に地方誌をさぐればよいことは明確に判明した。東北から北陸、東海にかけての地方誌を中心に、昭和53年以降の成果を収集するにあたり、新たに判明したのは、劇場に的をしぼった記述が薄い場合でも、映画館に関する記述によって劇場の消長が知られる場合の多いことである。これにより、映画館の所在の動向を把握することで、劇場から映画館への変遷の過程がたどれる見通しも立った。そこで日本全国に映画館数が最も多かったとされる時期を選び、『全国映画館名簿』のデータベース化に着手した。これは意外に入力件数が多く、本研究期間内に完遂することができず、データベース化の途上にあるが、これを完成させ劇場の所在分布と比較することで、演劇から映画へ、劇場から映画館へという流れを、データでおさえることができるものと思われる。
以上、より広範囲の調査研究を可能ならしめるための外部資金獲得のための、基礎調査をひとまず終えて、次の段階へ進む準備態勢をおおむね整えたものと考えている。