表題番号:2012A-506 日付:2014/04/08
研究課題動的近接場光学顕微鏡によるプラズモン誘起蛍光増強機構の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 井村 考平
研究成果概要
 貴金属ナノ構造体に光励起されるプラズモンは,光電場を空間的に局在化させ増強する。増強光電場は,近接して存在する分子の蛍光やラマン散乱を著しく増強する。プラズモン増強場は,蛍光やラマン散乱を介して微粒物質の検出を可能とすることから,化学センサーへの応用が期待されている。これを実現するためには,光電場の空間分布とプラズモンの動的特性を理解する必要がある。本課題では,プラズモンの寿命と蛍光寿命の相関を明らかにすることを研究目的にした。
 プラズモンの動的空間構造を可視化するためには,プラズモンの位相緩和時間に迫る時間分解能とプラズモンの空間周波数よりも高い空間分解能を実現する必要がある。研究着手当時,空間分解能50 nm,時間分解能30 fsを実現する装置を開発していたが,時間分解能をさらに改善し最高で20 fsの時間分解能を達成することに成功した。また,これを用いて凹凸金ナノ薄膜を研究対象として,ポンプ・ポローブ時間相関波形計測を行った結果,プラズモンの位相緩和時間に関する知見を得ることに成功した。また,相関時間の分布測定法も開発し,得られた分布が,周波数領域の測定で得られた位相緩和時間の分布と定性的に一致することを明らかとした。さらに,位相緩和時間の分布とラマン散乱活性の分布の比較を行い,プラズモンの位相緩和時間とラマン増強度との間に正の相関が存在することを示唆する結果が得られている。
 プラズモン増強場近傍での励起分子の蛍光挙動について詳細な知見を得るために,サブナノ秒の時間分解能を実現する近接場時間相関蛍光分光装置を開発した。この装置を用いて,金ナノボイド近傍に存在する分子の蛍光ダイナミクスを測定した結果,金ナノボイド辺縁部の光増強部位において,蛍光寿命の短寿命化が観測された。この結果は,励起分子の光放出過程にプラズモンが関与していることを示唆している。一方,光増強度とプラズモンの寿命の間にも相関関係が存在すると推測される。これまでのテスト計測から,光増強度とプラズモンの位相緩和時間の関係性についての知見を得ている。しかし,その物理的な解釈には至っていない。今後さらに詳細な測定を進めることで,光増強度とプラズモン位相緩和の相関関係,さらにはプラズモンの寿命と蛍光寿命の相関が明らかにする計画である。