表題番号:2012A-502 日付:2014/03/29
研究課題平城京設計プランの遡源に関する考古学的研究-中国隋唐長安城・洛陽城との比較から-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 専任講師 城倉 正祥
研究成果概要
 本研究課題では、隋唐期の長安城と洛陽城の考古学的な分析により都城の設計原理を復原し、日本平城京の遡源を明らかにすることを目的とした。具体的には、隋唐長安城・洛陽城の発掘成果に関する膨大な資料を収集し、造営尺度を析出すると同時に、GISシステムを用いて都城の歴史空間を復原する作業を行った。以下では、2012年度・2013年度に分けて研究の進展状況を概略した後に、本研究の成果について総括する。
【2012年度】
 本研究は国内における資料収集と分析、及び国外における都城遺跡の踏査の作業で構成される。まず、国内においてはArc GISソフトを購入して、既に公開されている長安城・洛陽城の衛星画像を中心に分析を行った。また、学生を研究補助として雇用し、中国都城に関する文献リストの作成と図書館での収集に従事してもらった。なお、文献収集作業に関して言えば、2年間で中国都城関連の文献として750論文、日本都城関連の文献として520論文を収集し、データベースおよびファイリングを完成させた。
 本年の国外調査としては、2012年4月25日~5月4日(10日間)に中国河南省洛陽、陝西省西安に赴き、隋唐期の洛陽城・長安城の踏査を行った。特に洛陽では、中国社会科学院考古研究所の漢魏洛陽城隊隊長:銭国祥氏のご協力によって、北魏太極殿の東堂の発掘現場の考察も行った。また、2013年3月5日~3月21日(17日間)に中国南京を中心とした江南の都城遺跡・古墳の踏査と博物館の資料調査を実施した。
【2013年度】
国内における文献収集と分析作業を引き続き進めたが、初年度で文献収集作業が順調に進んだため、本年は国外における調査を重視した。2013年4月23日~5月8日(15日間)には、中国東北地方の渤海・高句麗の都城遺跡の踏査を実施した。また、2013年10月31日~11月7日(8日間)には、中国山西省の北魏平城の踏査を実施した。さらに、2013年12月18日~12月27日(10日間)には、中国山東省で岱廟・孔廟などの宮殿建築の調査と春秋戦国期の都城遺跡の踏査を実施した。
 当初の研究計画では、隋唐期の長安城・洛陽城を集中的に調査する予定だったが、両都城に関する分析が進むにつれて、関連遺跡の調査が必要となり、結果的にはかなり広い地域の都城遺跡の踏査を実施することになった。
【研究成果】
 以上、2カ年の国内における文献収集・分析作業、及び国外における都城遺跡の踏査によって、特定課題でテーマとしていた中国隋唐期都城の設計原理の東アジアへの伝播に関して、様々な知見を蓄積した。まず、洛陽における発掘遺構の分析に関しては、「漢魏洛陽城遺構研究序説」と題する論文(下記研究成果①)で発表した。本研究によって集成したデータを総合的にまとめて、漢魏洛陽城の遺構研究の現状を整理すると同時に、遺構分析における尺度分析の有効性を展望した。なお、長安城の作業成果については、今後分析成果をまとめて発表する予定である。これら長安城・洛陽城における基礎的な分析を踏まえた上で、日中古代都城の比較研究に考察を進めた。しかし、日中古代都城の比較に関しては膨大な論点が存在するため、本研究では都城の正門に集中して研究成果をまとめることにした。その成果は、「日中古代都城における正門の規模と構造」と題する論文(下記研究成果②)で発表した。論文では、中国都城における門の構造と機能の発展をまとめると同時に、最終的には門の機能が宮城の中枢である太極殿と融合することで、唐長安城における含元殿が誕生した点を明らかにした。さらに、中国都城における設計の論理と思想が解体・再編成されて日本の都城、特に平城京に採用された点を考古学的に論じた。発掘遺構の日中比較という従来にない方法論で、平城京の遡源について言及した点が本研究の最大の成果である。ところで、本研究成果については読売新聞のオピニオン記事で一般向けの発信も行った。
 このように特定課題の推進によって日中古代都城の比較研究分野における重要な論点を発展させることができた。しかし、今回の研究では、宮城・皇城の中枢構造の全体像を比較するまでには至らず、外郭城・里坊といった都市空間の比較に関しても十分な分析を進めることができなかった。今後、これらの論点も考究していくことで、日中古代都城の比較研究をさらに進めていきたい。