表題番号:2012A-089 日付:2013/05/08
研究課題南シナ海を巡る領土・資源の紛争における海洋法の役割と限界
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 池島 大策
研究成果概要
 南シナ海における領域海洋を巡る争いについては、中国が主張する断続線(九段線、U字線、牛舌線とも称される線)の意味について多くの論争があり、フィリピンやベトナムを始めとして周辺諸国からの批判も多い。その断続線が主張されるには、それなりの理由、背景、歴史があることを理解しないと、法律論だけではすべてを把握できず、紛争の根本的な解決にはつながらない。こうした観点から検討した結果、次のような暫定的な結論を得ることができた。
 まず、断続線に関する学説として中国国内中心に挙げられる4つ(島嶼帰属線説、歴史的権利線説、歴史的水域説及び伝統的疆界線説)のそれぞれには、長所と短所が混在しているだけでなく、当初引かれた線に込められた意図とは乖離して、学者や専門家などがいわば後知恵として派生してきた感のあるものもある。島嶼の帰属を地図上に示したに過ぎないものであったとはいえ、中国固有の歴史的な背景や、国際社会・国際法に対する考え方などとも相まって、断続線の意味合いを探ることは、今後の紛争解決にどれほど役に立つかはまだ不明なところが少なくない。
 次に、この断続線の意味合いを確定してみたところで、実際上の外交的意義については見通せないという点がある。その意義が、現行の国際法に照らして中国に不利な内容となれば、周辺諸国を始めとした国際社会の圧倒的な多数がこれを歓迎することになろうが、領土主権の保持を重要な国益と考える中国が受け入れられない以上、真の解決に向けた方策となるかは望み薄であろう。むしろ、中国の意図は、西洋社会が中心となって形成してきた現行国際法では、それ以前からの歴史的な要因によって社会が形成されていた特に東アジア圏で生起するイシューを解決するには無理があるということを国際社会に理解させたいということではないか。このように中国が考えている節があるようにみられる。
 最後に、南シナ海における法的拘束力のある行動綱領(Code of Conduct)が近い将来採択されることは望ましいが、現行海洋法を始めとした国際法の諸規則を超える範囲で、いずれの国にとっても受け入れられるような内容が実現するかは予断を許さない。中国に対するフィリピンによる仲裁への一方的提訴が当該地域の平和と安定の維持にとって果たし得る役割は限定的であろう。領土権問題を棚上げにした共同開発や平和地域設置などの方途を模索する努力が関係諸国にはさらに必要であろう。