表題番号:2012A-087 日付:2013/05/14
研究課題バスケットボール選手の足部アライメント不良による下肢傷害発症メカニズムの検証
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) スポーツ科学学術院 准教授 広瀬 統一
研究成果概要
バスケットボールでは下肢、特に足部・足関節や膝関節の傷害が好発し、主にジャンプの着地時に頻発する。下肢スポーツ傷害を引き起こす内的要因のひとつとして足部形態、特に足部内側縦アーチ(以下、足部アーチ)や踵骨傾斜角度が挙げられる。足部アーチと踵骨傾斜角度は荷重時に変位することで荷重ストレスの緩衝に寄与するが、過度なアーチ低下や踵骨角度変位は衝撃緩衝能の低下や、運動連鎖の観点から膝関節の挙動に影響を与え、下肢傷害の危険因子となりうる。したがってジャンプ動作時の足部形態と足部および膝関節の挙動の関係を検討することは下肢傷害発症リスクとメカニズムを明らかにし、傷害予防指針を作成する上で重要である。そこで本研究では次元足型計測機を使用し、男子バスケットボール選手の足部形態測定を行い、足部形態と足関節・膝関節挙動との関係を解析し、下肢の傷害発症メカニズムとの関係について検討することを目的とした。
本研究の結果、男子バスケットボール選手の足部アーチ高は12歳(40.5mm)から15歳(46.2mm)まで上昇し、さらに踵骨が回外方向へ変化することが示された。これらの選手のうち、踵骨回内/アーチ高の低下(扁平足)と踵骨回外/上昇(ハイアーチ)が認められた選手12名(両群各6名)を対象に、両上前腸骨、大転子、膝関節内側/外側裂隙、足関節内外踝、踵骨上端、下端にマーカーを貼付し、片脚ランニングジャンプをハイスピードカメラ4台で撮影した。動作をジャンプへの踏み込み期とジャンプからの着地期に二分し、さらに踏み込みと着地期のHeel strike(Initial contact)期、Foot flat期、膝関節最大屈曲期の合計6期における1)膝関節屈曲角度、2)骨盤外転角度、3)骨盤回旋角度、4)膝関節回旋角度、5)膝関節変位量(膝関節の回内方向への変位)、6)踵骨傾斜角度を解析した。これらの値を回内群と回外群でT検定を用いて比較検討した。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。その結果、踵骨回内群は着地時により大きな踵骨回内挙動を示し(回内群 25.2°vs. 回外群 18.3°)、特に踵骨回内+アーチ低下を呈するものの変化が顕著であることが示された。この結果は踵骨過回内の場合には、同骨の挙動に関与する後脛骨筋や長母指屈筋などの伸張性ストレスを増大し、足部や下腿の障害リスクとなる得ることを示唆するものと考えられる。また、踵骨過回内、過回外による膝関節の挙動には変化が少なく、この要因として着地時の骨盤の挙動変位が少ないことが推察された。このことから膝関節の傷害発症リスクを検討する際には足部と骨盤の双方からの検討が必要であると考えられた。本研究結果から、バスケットボール選手のアーチ高や踵骨傾斜角度は経年的に上昇あるいは回外変位することが明らかとなった。このような変化を示す中で、踵骨の過回内や過回外を呈する選手はジャンプ着地時の踵骨角度変化の増大を引き起こし、傷害発症リスクが増大する可能性が示唆された。一方で、膝関節の傷害発症に関しては、骨盤帯の影響も大きく、今後傷害予防指針作成に向けてはインソールなどの足部アライメントに対する対策に加え、骨盤帯の挙動にも着目する必要があると考えられた。