表題番号:2012A-076 日付:2013/07/22
研究課題小学校英語活動教材での映像、音声情報の呈示が発音習得に与える影響についての調査
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 保崎 則雄
研究成果概要
本研究は、所沢市内の小学校5年生(被験者)9名の、口唇映像視聴の発音習得のストラテジーについて、調査した。一昨年から始まった小学校英語活動における小学生の英語発音の習得を効果的に増進するための基礎研究としての位置づけである。具体的には、まず日本人英語上級者である帰国学生をモデルとして、小学校英語活動で頻出する単語の発音を録画し、顔全体の中で口の動きがわかりやすいようにノンリニア編集を行った。完成した映像を使用して3種類の実験群の映像を制作した。3群は、映像のみ、音声のみ、映像と音声である。映像と音声が同時提示された実験映像は、情報の質量ともに一番多く、効果的であろうという予測であり、音声のみの実験材料は音から口の形、動きを小学5年生がどのような方略を用いて近似させるのか、ということを調査する目的で設定した。さらに、映像のみの実験材料は、見えるものと発音がどのようにつながるのかという音声とは逆の実験材料である。音声のみのものとは異なり、映像のみのものでは、マガーク効果(McGurk, H. and McDonald, J., 1976)のように、ある音(GA, BAのような音)を視聴して同じ音の生産を要求した場合、口の形、動きを見て、実際の音とは異なった音(BAの口唇映像を見て、GAと誤解するような)が生産されるということを想定したものである。データは、被験者の発音を視聴前の発音と比較し、英語のネイティブに変化を点数で評価してもらい、比較した。サンプル数がまだ少ないため統計処理は行うことをしていないが、明らかになったことは、1)映像+音声 のものは発音が一番よくなっていた。2)音声のみ のものは音は映像+音声のものと比較してもかなり近い発音となっていた。3)映像のみは3つの中では一番発音の習得が低かった。今回の実験では、音声のみの条件では予想通りにかなりの効果が得られたが、映像のみの条件では、予想した以上に小学5年生の被験者の努力のあとが見られ、発音は近似的であった。サンプル数が少なく、一般化をすることは難しいのであるが、このことは、マガーク効果が日本人にはそれほど大きな差とならない、ということを示唆していたものを支持する結果となった。さらの多くのサンプルを収集する必要があるが、今回の実験は、マガークのような単音ではなく、単語レベルであるため、単音の組み合わせ、つまり形態素での実験であるので、さらに精査が必要であろう。
さらに被験者の事後インタビューから、発音動作に至るまでのストラテジーに大きな違いがあった。特に映像だけの場合、必死で試行錯誤し、過去の近似の発音した口唇の動きを真似、映像の発音者に近づけるための苦労、努力が想像以上に大きかったことがわかった。音s婦負だけの場合には先行知識から比較的容易に音を再生することができたことが述べられていた。その後わかったことであるが、映像+音声の条件では、音声なしの映像を見せ、次に音を聞かせ、最後に映像+音声の映像を視聴されることの効果が大であることがわかったことは大きな収穫であった。今後、小学生に英語音声(単語レベルでの)を習得させるときに、たとえ英語ネイティブであっても、口唇映像をじっくり見せ、発音の形を理解させて、音を独立して聞かせ、最後に両方を提示する方法がかなり効果的であろうということが明らかになった。現状では、ほとんどの小学校英語活動では、英語発音練習時には、見せることと聞かせることが重複している。この研究の知見から、初学者にはまず情報処理の限界も考慮し、別々に提示し練習、習得をすることが正当性が明らかになった。今後は、指導法につなげることが次の目標である。