表題番号:2012A-073 日付:2013/04/11
研究課題神経発生過程におけるタンパク質SUMO化の役割
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 榊原 伸一
研究成果概要
中枢神経系の幹細胞(前駆細胞)は発生期から成体脳に至るまで存在し、そのニューロン産生頻度・細胞周期は、発生段階や外部環境などに依存してダイナミックに制御されている。しかし、この迅速な幹細胞の機能調節機構には不明な点も多い。我々は神経幹細胞の維持機構において、SUMO化・脱SUMO化によるタンパク分子(群)の拮抗的で動的な翻訳後修飾が重要な役割を担っていると推定している。SUMO(Small Ubiquitin-related Modifier)は標的タンパク質との結合によりその機能を修飾する事で、細胞周期進行、核-細胞質輸送、転写調節など多岐の生命現象に関わっている事が報告されている。哺乳類SUMOには3種類のアイソフォームSUMO-1, -2, -3が存在し、SUMO-2とSUMO-3は非常に高い相同性(95%)を示すサブグループを形成し、SUMO-1とは機能的相違が示唆されている。哺乳類の神経分化におけるSUMO化・脱SUMO化の役割を解明することを目的としてSUMO-1、SUMO-2/3、およびSUMO化酵素のひとつであるUBC9の発現パターンをマウス脳の発生過程を追って詳細に解析した結果、神経前駆細胞においてはSUMO-2/3によるSUMO化が豊富に起きていることが示された。一方、分化したニューロンではSUMO-2/3化のレベルが急速に低下することから、神経前駆細胞の維持に標的タンパク質のSUMO-2/3によるSUMO化の関与が予想された。そこで神経系前駆細胞でSUMO-2/3化されている標的タンパク質を同定するために、成体脳のSVZ領域を剖出しタンパク質を抽出し、SIMペプチドを固定化したカラムを用いてSUMO化タンパク質を精製した。精製標品はSDS-PAGEで展開後、バンドを切り出しLC-MS/MSプロテオーム解析により網羅的に同定した。その結果、NotchやWntシグナルカスケードなどに関わることが知られている細胞内シグナル分子や、機能未知のタンパク質など興味深いタンパク質群が同定された。現在これらのタンパク質群から幹細胞維持に関与している可能性が高い分子を選定し、実際に生体内でのSUMO化の有無を検討している。さらに同定した標的タンパク質のSUMO化部位を改変したミュータントタンパク質を作製し、子宮内胎児脳室への電気穿孔法により強制発現させることにより、神経前駆細胞での標的タンパク質のSUMO化の意義を明らかにする予定である。これらの解析により神経前駆細胞の維持におけるSUMO化の意義が明らかになると考えられる。