表題番号:2012A-063 日付:2013/03/22
研究課題海洋生物抽出液ライブラリーからのC型肝炎ウイルスNS3ヘリカーゼ阻害剤の探索
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 常田 聡
(連携研究者) 理工学術院 助教 大坂 利文
研究成果概要
 C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus,以降HCV)感染者は日本で約200万人と推定されており,感染を放置すると肝硬変・肝癌といった重篤な病態に進行する。治療法としてインターフェロン療法が確立されてはいるものの, 難治症例では治療効率が半分程度であること, また副作用が強いことから, より効果的な治療薬の開発が求められている。HCVは約9600塩基からなる1本鎖+鎖RNAをゲノムに有し,ここから前駆体ポリプロテインが翻訳され,最終的に10種類以上のウイルスタンパク質へと成熟する。このうちいくつかのタンパク質を標的にした複製阻害剤が新たな治療薬の候補として開発されつつあり,特にNS3プロテアーゼの阻害剤を従来のインターフェロン療法に加えた併用療法が臨床応用にまで至っている。しかしながら,1種のウイルスタンパク質のみを標的とした治療法では遺伝子変異による薬剤耐性ウイルスの出現が危惧されることから,人類がHCVを克服するためには,複数のウイルスタンパク質を標的とした複数の阻害剤投与を実現することが重要であるといえる。近年,HCVの増殖に関与するNS3がプロテアーゼ活性のみではなく,2本鎖の核酸を1本鎖にほどくヘリカーゼ活性を持ち,このヘリカーゼ活性を失活させることでHCVの増殖を抑えることが可能であることが明らかとなった。
 そこで申請者は,独自に構築したNS3ヘリカーゼ活性のハイスループットな活性評価技術を用い,NS3ヘリカーゼ阻害剤の獲得を目的として研究を行った。本測定法は,グアニン塩基との間の光励起電子移動反応によって蛍光が消光する特殊な蛍光色素を用い,ヘリカーゼ活性を簡便かつ迅速に測定することを可能にする。サンプルソースとして創薬資源として実績のある海洋生物抽出物ライブラリーを活用し,陽性試料の探索を行った。獲得した陽性試料はHCVレプリコンシステムを用いてウイルス増殖抑制活性の評価を行い,有望な試料については,活性成分の分画・精製を行い,最終的にNMRを用いて阻害剤の同定を試みた。
 海洋生物抽出物668種についてNS3ヘリカーゼ阻害剤の探索を行った結果,117種の試料がヘリカーゼ活性を50%以下に阻害し,さらにその内14種の抽出物にHCV増殖抑制活性を確認した。特に,沖縄産のウミシダAlloecomatella polycladiaの酢酸エチル抽出物に高いHCV増殖抑制活性があることを確認し,同抽出物を分画・精製した結果,極性分画より5種の化合物(その内4種は新規化合物)をNS3ヘリカーゼ阻害剤として同定することに成功した。しかしながら,これら阻害剤はHCV増殖抑制活性を示さなかったため,現在,非極性分画からの阻害剤の探索を引き続き行っている。また,この他にも陽性試料から複数の阻害剤を同定することに成功し,一部の阻害剤については生化学的な解析からNS3へリカーゼへの作用機序を明らかにすることができた。