表題番号:2012A-062 日付:2013/04/05
研究課題初代培養乳腺上皮細胞を用いたBasal-like乳癌発癌に関与する遺伝子の探索
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 仙波 憲太郎
研究成果概要
乳癌はLuminal-like, Basal-like, ErbB2過剰発現タイプの3つのサブタイプに大別される。中でもBasal-like乳癌は癌細胞そのものの増殖能や運動性が高いことに加えて、従来の治療標的分子であるホルモン受容体やERBB2の発現が見られず有効な分子標的治療法が存在しないため予後が悪い。本研究ではこのBasal-like乳癌における発癌および癌悪性化に関する因子を網羅的に解析するため、マウス由来の初代培養乳腺上皮細胞とマトリゲル三次元培養を用いたin vitroスクリーニング系の確立を目標として研究を行った。
まず最初にBasal-like乳癌のcell of originであることが報告されているLuminal前駆細胞を含むLuminal細胞画分の単離を試みた。マウス乳腺fat padを酵素処理し得られた細胞懸濁液を白血球共通抗原CD45, 赤血球抗原TER119, 内皮細胞抗原CD31で染色して血球や血管に由来する細胞を除去し、残りの上皮および繊維芽細胞を含む画分をCD24およびCD49fで展開することでCD24high, CD49flowのLuminal細胞画分をセルソーターによって分取した。更にこの画分に含まれる細胞がLuminalケラチンであるKeratin 8およびKeratin 18を発現し、BasalケラチンであるKeratin 5およびKeratin 14を発現しないことを免疫染色およびRT-PCRによって確認した。次にこのLuminal細胞をマトリゲル上に播種して乳腺構造を模倣した管腔の形成を観察したところ、播種1日後にはマトリゲル上で細胞同士が細胞塊を形成することが分かり、播種後3~4日と早い段階で中空コロニーが形成された。また中空コロニー形成後に蛍光タンパク質を発現するレトロウイルスベクターを上清培地に加えることで中空コロニーの一部の細胞に蛍光が観察され、乳腺構造を模倣した管腔環境下での遺伝子導入が可能であることが分かった。しかしながらこのコロニーは播種8日後には中心が細胞で満たされてしまい、その後縮小してしまうことが分かった。実際の解析では中空コロニー形成後に癌遺伝子候補を導入して経過を観察することで癌化や悪性化の過程を解析することを目標としているため、中空コロニーの状態を解析期間の間維持する必要がある。そこで次に播種する細胞数の最適化を検討した。細胞数を2 x 104 cells/well程度まで薄くすると播種後細胞塊の形成は見られず、中空コロニーは播種後7~10日と遅れて形成され、その後15日目まで維持されることが分かったが1 well辺りに見られる中空コロニー数が最大50個程度となり、また実験毎にコロニー形成数が大きく変化するという結果が得られた。この原因としてLuminal細胞画分には比較的少数の増殖可能なLuminal前駆細胞と大半を占める増殖能に乏しい成熟Luminal細胞が存在し、この割合がマウスの性周期によって変動していることが考えられる。また、いくつかのwellにおいては繊維芽細胞のコンタミネーションが見られ、マトリゲルの下部で活発に増殖している様子が観察された。そこで、非上皮細胞除去の際に繊維芽細胞表面に発現するCD140a抗原に対する抗体を加えて繊維芽細胞の除去を行い、さらにLuminal細胞画分をCD61抗体で染色することでCD24high, CD49flow, CD61+の増殖可能なLuminal前駆細胞を濃縮することを考えた。これまでに、以前のLuminal前駆細胞に関する報告と同程度である、Luminal細胞画分の15~30%にCD61陽性細胞が見られることが分かった。また、実際の癌遺伝子導入実験においては癌抑制因子p53の機能を抑制しなければoncogene-induced senescenceによって最終的に細胞死が誘導されることが示唆されるため、現在p53欠損マウスにおいても解析を進めており、野生型マウスと同程度のCD61陽性Luminal細胞が得られることを確認している。今後はこのCD61陽性Lumina細胞を単離してマトリゲル上での培養を検討することで長期間中空コロニーを維持可能な系を確立しBasal-like乳癌に重要な因子の解析を行う予定である。