表題番号:2012A-061 日付:2013/04/03
研究課題ゼブラフィッシュ成魚脳を用いた神経幹細胞の増殖・分化の分子機構の解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 大島 登志男
研究成果概要
成体脳での神経新生は、失われた神経機能を回復させる神経再生医療の面で注目されている。しかし、神経幹細胞・神経前駆細胞の増殖・分化を制御する分子機構は不明な点が多い。本研究では、哺乳類に比較して広範囲で神経新生が行われている生物モデルであるゼブラフィッシュ成魚を用いて、神経幹細胞の増殖・分化に係わる分子機構の解明を目的とした。我々は眼の視神経の投射先である視蓋における神経新生について研究を行なってきた。マウスなど哺乳類の研究で神経新生への関与が示唆されているシグナル伝達経路が、ゼブラフィッシュ成魚視蓋においてどのように神経幹細胞の増殖・分化に関与するかを、シグナル伝達の阻害剤や遺伝子発現制御により明らかにすることを目指した。
 今回の解析では、特にNotchシグナルとWntシグナルに着目して研究を進めた。
Notchシグナルの活性化にはリガンドであるNotchのgamma-セクレターゼによる切断が必要であることから、Notchシグナルの阻害剤として用いられる。実験では、gamma-セクレターゼ阻害剤LY450139を飼育水中に加え、BrdU取り込みで細胞増殖を評価することにより、ゼブラフィッシュ成魚視蓋での神経幹細胞増殖を増加させることが明らかとなった。また、Wntシグナルの阻害剤であるIWR1を投与することにより、Wntシグナルの関与を検討したところ、視蓋における細胞増殖は抑制された。逆に、Wntシグナル活性化状態を模倣するGSK3抑制剤の投与により、細胞増殖は増加傾向であった。従って、阻害剤などの薬剤を用いた実験結果より、神経幹細胞増殖・神経前駆細胞に対して、Notchシグナルは抑制的に、Wntシグナルは促進的に働いていることが示唆された。 Wntシグナルに関しては、薬剤投与による実験から得られた結果をさらに検討するため、ヒートショックによりWntシグナルが抑制されるトランスジェニックゼブラフィッシュを用いてさらに検討を行なっている。