表題番号:2012A-059 日付:2013/04/04
研究課題食物アレルギー発症・寛容におけるマウス体内時計の役割解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 柴田 重信
研究成果概要
[背景・目的]
日本をはじめとする先進国では,食物アレルギーを発症する人が急増しており,食物アレルギーは食品安全上重要な課題となっている。アレルギーと体内時計には深い関わりがあると示唆されており,例えば喘息では,夜から早朝にかけて副交感神経の亢進、交感神経の低下により,症状が悪化しやすいという時間生物学的特徴がある。しかし,食物アレルギーと時間との関連についてはあまり分かっていない。そこでマウスを用いて,食物抗原摂取時間の違いによりアレルギー症状に差が出るのかを検証した。また,症状の程度が時間により異なる原因について,体内時計が腸管防御機構にどのような影響を与えているのかを調べた。
[方法]
マウスの腹腔内にOVAを暴露し, ELISAによりOVA特異的IgEが産生され,感作されていることを確認した。6時間の絶食を経て,早朝に相当するZT9もしくは夕方に相当するZT21に,OVA80mgを含む水溶液を経口投与し,30-60分後に症状を観察した。症状は便と,経口投与前後での体重変化で評価した。3日後に2度目の投与をし,症状を観察した。観察後,腸間膜リンパ節を採取し培養を行った。細胞数を揃えOVAで再刺激をし,72時間後培養液を回収した。その後,上清中のIL-5およびIL-13をELISAにより測定した。
もう一つの実験として,抗原の血中移入量が時間により異なるのかを調べた。抗原は腸から血液,リンパ管を経てリンパ器官へ移入し,免疫反応を起こす。そのため,血中の抗原量を測定するのは免疫反応の起こりやすさを推測するのに有効だと考えた。感作をしていないマウスに,先の実験同様6時間の絶食を経て,ZT9かZT21にOVA80mgを含む水溶液を経口投与し,30分後採血した。血清中のOVA量はELISAにより測定した。
[結果]
便は状態に応じてスコア化した。異常がない・便をしない場合は0,軟便である場合は1,下痢便である場合は2,下痢便で排便量も多くお尻が汚れている場合は3でスコア化した。ZT21群に比べてZT9群で便スコアが有意に高くなった。排便量が多い程体重は減少するはずであるが,便の状態と相関して体重が減少していることが確認できた。体重変化においてもZT9群で有意に体重が減少する結果となり,症状はZT9で悪化することが分かった。
培養液中のIL-5とIL-13は,どちらもZT9群で多いという結果が得られた。
抗原の血中移入量に関しても,ZT9群で有意に多いという結果が得られた。
[考察]
ZT9で症状が悪化した原因として,腸間膜リンパ節の培養実験から,IL-5やIL-13を分泌するTh2細胞がZT9で活性化するため,ということが示唆された。便スコアとの関係を見ると,分泌量は便スコアに依存していることが分かる。このことから,Th2細胞の働き具合は症状の程度を左右する要因の1つであると考えた。 また,抗原血中移入量がZT9で多いため,免疫反応が起こりやすくなり,これも症状が悪化する原因の1つだと考えられる。