表題番号:2012A-055 日付:2013/05/09
研究課題光学活性メタラロセン化合物の触媒的不斉合成法の開発と応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 柴田 高範
研究成果概要
 金属が2つのシクロペンタジエニル基によりサンドウィッチ状に挟まれたメタラロセン化合物の中で、金属が鉄であるフェロセンとその誘導体は、その特徴的な構造と化学的・熱力学的・酸化還元的安定性から様々な分野で応用されている。その代表例が不斉リン配位子であり、例えば、フェロセン骨格を持つキシリホス(xyliphos)は除草剤(S)-Metolachlorの年10000トン以上のスケールでの工業的な不斉合成に用いられており、工業的な利用に耐えうる数少ない不斉リン配位子の一つである。しかしながら、このようなキラルな1,2-二置換フェロセンの合成には、化学量論量の有機金属試薬を用いるジアステレオ選択的な手法が多く用いられていた。一方、当研究室ではこれまでにカチオン性イリジウム、ロジウム触媒を用いて配向性置換基を持つ反応基質の炭素-水素結合活性化反応を利用した炭素-炭素結合生成反応の開発を行った。そこで本研究では、配向性置換基を利用した炭素-水素結合の活性化により、直接的な炭素-炭素結合生成反応によって、フェロセン誘導体の合成およびその不斉合成を目指した。
 配向基としてイミノ基を有するフェロセン用い、三価ロジウム触媒存在下、イソシアナートとの反応を試みたところ、イミノ基のα位がアミド化された二置換体フェロセン誘導体が得られた。反応条件の最適化の結果、対アニオンとしてテトラフルオロホウ酸(BF4)を用いることで、電子求引性あるいは供与性置換基を有するフェニルイソシアナート、あるいはアルキルイソシアナートとの反応が進行し、対応する二置換体フェロセン誘導体が得られた。
 そこで次に、本系を不斉反応へ展開し、キラルな配向基としてオキサゾリン環を用いて検討を行った。その結果イミノ基を配向基とするフェロセンと同様にアリールイソシアナート、アルキルイソシアナートに対しても反応が進行した。また、いずれの反応においても生成物は単一のジアステレオマーとして得られ、特にパラクロロフェニルイソシアナートとの反応生成物は単結晶であり、X線による結晶構造解析により立体構造を確定できた。
 上記のように、カチオン性ロジウム触媒を用いることにより、炭素―水素の直接的な官能基化によるキラル二置換フェロセン化合物の合成を達成した。今後、プロキラルなフェロセン化合物のエナンチオ選択的な不斉合成を目指す。