表題番号:2012A-051 日付:2013/11/11
研究課題重力波天文学と重力理論の検証
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 前田 恵一
研究成果概要
1990年代半ばから始まった大型重力波望遠鏡建設計画は、米国のLIGO、欧州のVIRGOの観測開始,そして日本のKAGRA計画の実質的スタートにより本格的観測が可能な段階に突入し、重力波天文学は現実的なものになってきている。この重力波天文学の重要な目的としては,重力理論の検証,超高密度領域における新しい現象の探求,そして第3の目としての天文学である。一方、ビッグバン標準宇宙論の大成功にもかかわらず、宇宙論では「ダークエネルギー」という大きな謎が出現し、人類は新たな挑戦状を突きつけられている。宇宙の4分の3が宇宙膨張を加速させる未知のエネルギーで占められているという。その正体はまだ全くわかっていないが、一つの可能性として、宇宙規模のスケールでは一般相対性理論が変更を受け、それに代わる新しい重力理論により加速膨張を説明しようというアプローチが提案されている。
このような状況においては、重力波天文学の目標の一つである「重力理論の検証」を相対論研究の立場からより真剣に考える必要がある。本研究では、申請者のこれまでの種々の重力理論研究の経験を生かし、そのような新しい重力理論に基づく重力波の研究を行う。その具体的方法および成果は以下の通りである。
ダークエネルギーを説明する新しい重力理論としては、量子補正などから期待される曲率高次の項を現象論的に取り入れたf(R)重力理論、基礎方程式が2階微分方程式で表されるガリレオン重力理論、また一般相対性理論の代替理論として従来から研究されているBrans-Dicke 理論やスカラー・テンソル理論、ベクトル場を加えたアインシュタイン・エーテル理論やTeVeS理論、さらには、有限質量の重力子を考える有質量重力理論(massive gravity)や双重力理論(bi-gravity)など、非常に多くの重力理論が提唱されている。本研究では、重力波を用いてそれらの理論を判別する方法としてブラックホールのQuasi Normal Mode(QNM)解析を考える。一般相対性理論において従来から研究されている連星系の合体やそれに伴うブラックホール形成から放出される重力波は重力波天文学の重要なターゲットの一つであるが、その最終段階で放出されるQNM重力波はブラックホールの性質に大きく依存する。ところが重力理論が異なるとブラックホール解やその摂動方程式が異なり、QNM重力波観測が重力理論検証に決定的な役割を果たすと考えられる。そこで、様々な重力理論に基づくブラックホール解の探索とそのQNM解析を目指した。まずその準備段階として、ブラックホール解は必ずしも解析的に得られるとは限らないので、数値解でブラックホールが得られた場合のQNMを求める手法を開発した。また、近年特に注目されている双重力理論においては、質量ゼロの重力子とともに有限質量の重力子が現れ、それが観測的に大きな制限を与えることが予想される。この場合のブラックホールはSchwarzschildまたはSchwarzschild-de Sitter時空で記述されるが、その場合のQNMがどのように得られ、観測的にどのような制限が加わるかという問題に関しては、まだ最終的な結果が得られていなく、近い将来にその研究成果を発表する予定である。