表題番号:2012A-041 日付:2013/04/12
研究課題理工系学生にみるギーク症候群の実態とインクルーシブ教育との関連に関する調査研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 片田 房
(連携研究者) 理工学術院 教授 上野義雄
研究成果概要
ギーク症候群(Geek Syndrome)の異名をとる高機能自閉症・アスペルガー症候群は、社会性やコミュニケーションの障害を特徴とする一方で、時に高い集中力の伴う優秀な才能と併存するだけに、大学という教育機関に相当数の対象学生がいるものと推察される。身体障害、知的障害に加えて、第三の障害(広汎性発達障害/自閉症スペクトラム障害)としての認知が進みつつあるこの障害は、従来の還元主義的な脳科学ではその医学的・生物学的な要因の解明は難しく、教育現場においても実態を把握することは容易ではない。従って教育支援体制も未開拓の分野である。早稲田大学においては、「障がい学生支援室」と各学術院教学支援課のスタッフ、及び教育現場を預かる担当教員との連携で個々のケース毎に支援の対応がなされているが、その対象は身体障害学生に限定されているのが現実である。大学における非定型発達学生に関する実態のより体系的な把握と関係者への啓蒙が早急に望まれる。
本調査研究では、以上のような現状認識と問題意識の下に、以下の活動を行った。
1.大学生の気質調査質問表①とクリティカル・シンキング志向調査表②(双方ともに日本語版と英語版)を、以下の要領にていずれも本調査用に四択に改良し作成した。
①(合計60問)
 ・The Autism-Spectrum Quotient (AQ)を測る指標としてBaron-Cohen, Wheelwright, Skinner, Martin, & Clubley (2001)が作成し、標準化した50問とその邦訳版(若林、東條らによる)
 ・本調査用に作成した科目別の嗜好を調査する10問
②(合計64問)
・MSLQ(motivated strategies for learning questionnaire)から:
Critical Thinking Sectionから抽出した5問
Self-efficacy Sectionから抽出した8問
・Stapleton (2002)がアジアの学生の思考姿勢の調査に使った9問
・平山&楠見(2004)が提示した33項目にわたる質問表のから抽出した18問
・Kruglanski, et al. (2000)が自己制御の二つの形態の測定に使った24問

2.上記の質問表を用い、以下の学生を対象とするアンケート調査を行った。
(a)早稲田大学理工学術院に学ぶ学部生250名
(b)専門分野がより広範にわたる大学生200名(調査機関を介して)

3.2012 年11月、琉球大学にて開催された「日本教育心理学会第54回総会」にて、英語教育センターの専任教員(同僚)3名と共にシンポジウムを主催し、本調査研究の中間発表・話題提供・問題提起を行った。(下記研究成果発表参照)

4.米国において、シカゴ大学、MIT、ボストンカレッジ、ノース・イースタン大学を中心に、ギーク症候群という気質的要素が教育カリキュラム編成にどの程度考慮されているのかについての基礎的な情報収集を行った。また、Katharine Beals氏(「Raising a left-brain child in a right-brain world」の著者)と会談し、情報交換と今後の共同研究の可能性について議論した。尚、特別研究期間中の上野(連携研究者)は、客員研究員として滞在したシカゴ大学を中心に情報を収集した。

以上の活動がパイロット・スタディーとなり、平成25年度科研費(挑戦的萌芽研究)に新規採択された。特定課題研究で計画した活動のうち、1年間では消化しきれなかった研究項目とデータの精査は、連携研究者と共に今後3年間に亘り科研費の下で実行し、新たな視点を加えて調査対象を広げ、FD研究会等で啓蒙活動を行っていく。