表題番号:2012A-038 日付:2013/03/05
研究課題津波ハザードを受ける社会基盤構造物のリスク評価とその軽減策
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 秋山 充良
研究成果概要
 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により,東日本沿岸部にある社会基盤構造物(道路や鉄道ネットワーク)は壊滅的な被害を受けた.道路や鉄道には,地震後の避難や救助救急等の緊急活動,あるいは,ライフラインの復旧活動を支える交通基盤として重要な役割が期待されていたが,その機能を十分に果たすことができなかった.その原因となったのは,過去に発生した社会基盤構造物の地震被害で観察されなかった2つの新しい破壊形態が見られたことによる.
(1) 津波による構造物の流出・倒壊
(2) 塩害劣化により耐震性能低下が生じた構造物の強震動による損傷
 近い将来に必ず発生する東海・東南海・南海地震でも,この(1)と(2)により太平洋沿岸部にある社会基盤構造物は相当の被害を受ける可能性がある.本研究では,(1)と(2)の損傷メカニズムを実験的・解析的アプローチにより解明するとともに,東海・東南海・南海地震に対する被害シミュレーション(リスク評価)と,その被害を軽減する方策を提言した.具体的な成果を以下に示す.
 ⇒国内外の社会基盤構造物の耐震設計基準で津波作用を考慮したものは存在しない.本研究では,数値シミュレーションにより,津波・構造物の連成解析を行い,それらに基づき橋梁の対津波落橋防止構造の設計法を構築した.
 ⇒東海・東南海・南海地震の影響を受ける海岸線近くの橋梁は膨大な数にのぼる.これら橋梁群の津波リスクを評価した.対津波落橋防止構造を既存橋梁に導入する投資と,それにより低減される津波リスクの比較を行い,この投資の価値を定量的に議論できるフレームワークを提示した.
 ⇒海岸線近くにある橋梁は,津波以外にも脅威となる自然作用が存在する.強震動と海洋からの飛来塩分である.東海・東南海・南海地震の影響を受ける地域にある社会基盤構造物は,建設後,既に50年近くになる構造物が多数あり,材料劣化が顕在化している.このような材料劣化が生じた構造物が強震動を受けた場合には,脆性的な破壊が生じる可能性が指摘されるものの,材料劣化が生じた構造物の安全性を評価する過程には未解決な問題が多数残されている.本研究は,材料劣化が生じた構造物の実験および解析を行い,この種の構造の耐震安全性評価法を提示した.
 これら一連の成果として,地震・津波・塩害のマルチハザードを受ける社会基盤構造物のリスク評価法を提示している.