表題番号:2012A-036 日付:2013/05/02
研究課題医療安全教育項目に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 棟近 雅彦
研究成果概要
病院では,組織で質保証の活動に取り組む必要がある.そこで,組織的に業務の質を管理,改善するための仕組みである質マネジメントシステム(以下,QMS)を導入・推進する病院が増えている.安全は質の一要素であるが,医療は直接的に人命にかかわる業務が多いので,特に安全を重視すべきである.安全を確保するために,医療安全マネジメントを実践することは,QMSの中でも重点的な活動である.
医療安全マネジメントは,病院の各階層の医療従事者がそれぞれの役割を果たすことによって有効に機能する.本研究では,医療安全マネジメントを実践できる人材を育てるための教育を医療安全教育と呼び,そこで教えるべき医療安全教育項目(以下,教育項目)を整理した一覧表を提案することを目的とした.なお,医療安全マネジメントを実践できるというのは,各階層に応じてやるべき活動を実行することを指す.
まず,産業界のQMSをもとに,医療安全マネジメントシステムを明確にした.医療安全マネジメントシステムは,安全を考慮した手順の確立,組織的な手順の遵守,業務・手順の見直し,不具合発生時の即時対応,説明の実施,再発防止策の立案・実施の6つの活動から成る.
次に,医療安全マネジメントシステムを運用するために必要な教育項目の全体像を導出した.その結果,手順の確立・遵守の教育項目として6項目(医療プロセスの標準化,文書管理,医療物品の管理,情報管理,安全行動,医療安全とITシステム),業務・手順の見直しの項目として2項目(プロセスチェック,外部情報の取得),即時対応の項目として1項目(即時対応方法),説明責任の項目として2項目(情報提供・開示,訴訟・医療コンフリクトマネジメント),再発防止策の項目として2項目(事故再発防止方法,よく起こる事故への対応)を導出した.その他に基本概念や手法,運用体制の教育項目をあげ,全部で19項目を導出した.これを大項目とした.教育立案を容易にするため,文献を調査し,大項目を中項目(69項目),小項目(212項目)へと展開し,一覧表を作成した.
提案した一覧表を用いて,実際に4つの病院で教育カリキュラムの立案,実施をおこなった.一覧表を活用することで,教育項目のつながりを考慮した体系的な教育を立案,実施することが可能となった.また,教育後に,アンケートや理解度テストをおこない,効果を確認した.その結果,有用な教育を実施できたことを検証した.
本研究の成果により,医療界に質経営を導入・推進するために有益な教育体系を確立することが可能となった.