表題番号:2012A-014 日付:2013/04/13
研究課題文学学術院所蔵「木下尚江資料」の整理・データベース化を通した木下尚江の業績の検証
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 中島 国彦
研究成果概要
 文学学術院には、かつて木下尚江の遺族木下正造氏から譲っていただいた自筆資料類がある。その「木下尚江資料」の整理・公開には、かつて柳田泉教授・稲垣達郎教授らが当たってきたが、その多くは未整理のままになっていた。教文館版『木下尚江全集』には、2002年までに整理された資料が活字化されて翻刻されたが、まだ多くの未発表資料が存在する。2009年以降申請者を中心にその整理が集中して行なわれ、その作業は《重点領域研究》国際日本文学・文化研究所に受け継がれ、翻刻紹介の形での『木下尚江資料集』の刊行、文学学術院ホームページ上の画像データベース作成が実現した。まず、ホームページでの公開を前提としたデジタル画像の製作を試み、研究協力者の支援を得て、2009年9月までにデジタル画像の製作を実施し、約400コマを完成した。年度末までに、受け入れ資料のうち未発表の「論説草稿」の部分を、大学院文学研究科の博士課程院生を含めたチームを作って翻刻、それに解題を付す作業を行った。『木下尚江資料集』96ページがそれである。更に2年目は、「論説演説草稿・詩歌草稿」を整理、『資料集』第2集は、166ページの大冊となった。画像データベースも、第2次公開された。その過程で、各資料の史的意味の分析を行い、その一端は、申請者の執筆した論文の形でまとめた。
 2012年度に「特定課題A」の採択を受けて、残りの資料から未発表の「書簡」を翻刻し、画像データベースに追加する作業を行った。年月日を確定するのは難しい作業だったが、ほぼ紹介できたと思っている。2013年2月に刊行した『資料集』第3集は、46ページであるが、すべて全集未収録の新資料であり、尚江研究に大いに役立つものと信じている。
 懸案は、尚江自筆の資料であっても、断片の集積で、『資料集』での翻刻が困難なものの扱い、更に尚江が努力した、知友田中正造・島田三郎関係の収集資料の紹介である。田中正造の尚江宛書簡については、『資料集』の形でなく、申請者の論文の中で紹介する形とし、今年度は前半部分を執筆した。2013年度に、後半を翻刻紹介する。また、尚江が大きな影響を受けた政治家島田三郎に関係する資料のうち、「先生最後の憂ひ」と題する演説が、速記のまま未発表であることがわかり、その紹介を予定している(2013年6月)。演説の巧みな尚江だが、これまで演説要旨や、その草稿メモは残されていたが、肉声をそのまま伝える演説速記は今回初めて紹介される。この調査研究で、そうした資料の存在を確認し、公表できるのは、尚江研究にとってもありがたいことと思う。将来に備え、資料のデジカメでの撮影を進めたので、そうした資料の翻刻紹介を今後も続けていきたいと考えている。