表題番号:2012A-005 日付:2013/04/01
研究課題公務員法制の改革と科学的人事行政の将来
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 田村 達久
研究成果概要
 内閣が平成23年6月3日に国会に提出した国家公務員法等の一部を改正する法律(閣法第74号。以下「23年法案」という。)、国家公務員の労働関係に関する法律案(閣法第75号)、公務員庁設置法案(閣法第76号)、および、国家公務員法等の一部を改正する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(閣法第77号)の4法案(以下「改革関連4法案」という。)等によって意図した、国家公務員制度改革基本法(平成20年法律第68号)に基づく国家公務員制度に係る法制度の改革は、平成25年3月31日時点においても実現していない。改革関連4法案中、科学人事行政の今後のあり方に直接影響を与える改革案は、第三者機関であった人事院の廃止し、その諸権限を、主には使用者機関性を持つ公務員庁に引き継がせつつも、委員長のみが認証官とされ、他の2名の委員は非常勤とされる人事公正委員会に公平審査機能・権限に配分するなど複数の機関へと分散するとするものである。また、幹部職員(この定義は23年法案1条により新設される国家公務員法34条1項6号)も一般職非現業公務員でありながら、その人事行政のみが他の一般職非現業公務員のそれから切り離されて内閣人事局において掌られることとする改革案も同様である。日本国憲法の採用する近代公務員制度の意義・理念の1つに、「科学的人事行政の確立・確保」がある。人事行政の能率、公正の原則と言い換えられうるが、そこにいう「能率」は、たんなる「効率」とか、「迅速性」とか、平たくいってしまえば、「人事のしやすさ」とは全く異なるものであるはずである。当該理念は、現行法制においては、成績主義、人事院制度などの制度に具現化している。高度に複雑化し専門化している現代の人事行政が科学的・客観的に実施されるためには、人事行政機構が人事行政から恣意性・非合理性を排除する適切なものとなっていなければならない。前述の改革案は、現行の法制度に基づくよりも当該理念により親和的であり、それをよりよく実現しうるものなのかが問われるべきであろう。例えば、内閣人事局が掌る幹部人事に関しては、その公正性をいかに担保、確保するかが焦点となる。事務次官等の幹部職にある公務員も一般職公務員であるから、その人権保障はもとより、科学的人事行政の確保が当然要請される。科学的人事行政の確保の理念からすれば、幹部職員の適格性審査の実施要領策定やその審査プロセスに人事公正委員会が実効的に関与しうる仕組みを法令により整備することがその一方策として考えられようが、かかる措置は改革関連4法案には盛り込まれていない。「公務員制度は国民のためにあるという素朴な出発点に立ち返り、公務員自身の人権保障をも考慮しつつ、その将来の方向を探らなければならない」と指摘されて久しいが、改めてこの指摘が念頭に置かれなければなるまい。