表題番号:2012A-002 日付:2013/04/12
研究課題複数財オークションにおける落とし穴現象を分析する視線測定器実験
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 船木 由喜彦
研究成果概要
 オークションは市場において非分割財を取引するための非常に有効な仕組みである。1財のオークションの理論研究は進んできているが、現実への応用性などから、複数財オークションや繰り返しオークションの研究の必要性が高まっている。しかしながら、複数財、特に補完財の場合のワルラス均衡を実現するのは非常に難しい。Sun and Yangによる論文“A Double-TrackAdjustment Process for Discrete Markets with Substitutes and Complements,” Econometrica 77(3),pp.933-952では、複数補完財のオークションに関して、新しいメカニズムが提案された。われわれのグループでは、先行研究としてこのメカニズムに関する経済学実験によるアプローチを続け、ある場合には理論通りの結果が得られ、ある場合には理論通りの結果に至らないことを発見した。しかしながら、この後者の乖離の状況は、一定のパターンを示しており、被験者の最適選択ではないが、合理的な理由づけがある行動によって説明されることがわかった。われわれはそれを、被験者行動の「落とし穴」とよび、このような現象を「落とし穴現象」と名付けた。このような実験の結果と現象の分析は、Uto, Kamijo, Funaki の論文“An Experimental Study of Double-TrackAuction”において分析がなされている。
 本研究の特徴は、この問題に関し、従来の実験研究とは異なり、最先端の機器である視線測定器を利用することで解析することである。視線測定器は、実験参加者の目の動きを実験中に記録することができる最新の機械で、実験中の実験参加者の情報取得行動を確実に記録することができる。個人の視線の滞留時間や注視回数を比較することにより、意思決定に用いられた情報の重要性を分析することが可能である。確かに、心理学やマーケティングにおける先行研究で、注視回数と個人の選好関係の相関性が分析されている。
 これらの計画に基づき、本研究では、7月と12月に視線測定器による実験を行い、50名程度のデータを集めた。視線測定器は高価な機器で、新型の機器は2台しかなく、2台のマシンを並行して、実験を行なわなければならない。すなわち、1回当たりの実験ではデータを2つしか集めることができない。また、1回当たりの実験に必要な時間は5分~15分と短い。そこで、複数の実験を組み合わせて実験を行う必要がある。したがって、本研究の実験実施についても、多くの研究協力者の下、政治的選択の実験やリスクに対する態度の事件、金銭的誘因の有効性の実験などと組み合わせて行われた。他の実験と比較して、この実験は、2人の間の相互関係を維持する必要があり、その設計や実施には困難を極めた。
 実験の結果、人々の情報取得行動に一定のパターンがあることを見出したが、落とし穴のある状況と、そうでない状況の比較は容易ではない。実験の結果として、自分の利益にのみ興味のある実験参加者と、他者の利得も十分観察するものがいることはわかったが、
視線測定器によるデータの量は膨大であり厳密な統計的分析を行うのは大変難しく、分析方法に対するさらなる工夫が必要である。しかも、最もシンプルな方法で分析しても、さらに多くの被験者データを集めなければならないことがわかった。幸い2013年度も、他の視線測定器による実験を続けることが決まっているので、それと合わせて、本研究のデータも追加することを計画している。それにより、落とし穴に陥る行動と情報取得行動のより詳細な関連性を調べることができると考えている。
 このように、今回の研究では、その成果はパイロット的、限定的であるが、このような先端的な研究を継続し、成果を蓄積していくことが、さらなる研究発展のためには重要であると考えている。、