表題番号:2011B-319 日付:2012/04/13
研究課題一般レベルのヤコビ形式上に作用する算術的作用素の跡公式の記述とその応用の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 坂田 裕
研究成果概要
本特定課題研究では,昨年度奨励研究で用いた数々の理論や手法を引き継いで跡公式の定式化と(その応用を含めた)理論構成を
地道に進めてきた.さらに,本研究の意義を多方面に周知させ,同時に本研究を多角的に推進する目的で,2011年度では下記6
箇所において研究講演を実施し,本研究課題について多くの研究者と様々な角度から研究討論・研究打ち合わせも行ってきた.
特に2012早稲田整数論研究集会(3月19日(月)~3月21日(水)於 早稲田大学理工学部)では研究講演を行うだけでなく,
研究集会代表者の一人として主催・運営にも積極的に当たった.この研究集会は本特定課題研究の支援の下,本研究の中核をな
す「算術的作用素の跡公式」とその周辺分野を主に扱う国際研究集会として企画したため,本課題研究のみならず関連分野の研
究にも様々な影響を与えることが出来たといえよう.
この様に地道な取り組みと(研究講演を通じた)様々な研究者との白熱した研究討論を続けることで,本課題研究をさらに深化
・発展させることが出来,結果として以下の成果が得られた:

1)平方因子を持たないレベルのヤコビ形式上に作用する算術的作用素の跡公式を完全に記述した.また,その成果の一部を拡張
  ・一般化することで,素数冪レベルのヤコビ形式上に作用する算術的作用素の跡公式の主要項を完全に記述した.その結果,
  素数冪レベルのヤコビ形式全体のなす空間の分解に必要な写像の特性が判明した.
2)平方因子を持たないレベルのヤコビ形式上に作用する算術的作用素の跡公式を用いて構成したヤコビ新形式間のリフティング
  写像(レベルと指数を入れ替えるヘッケ対応写像)を,ヤコビ形式間の場合に拡張・定義した(東京理科大・青木宏樹氏との共
  同研究).なお,新形式間での写像でない場合,この写像は単射な写像にしかならないことも判明した.
3)3)で与えたリフティング写像をベクトル値保型形式上のヴェイユ表現を用いて再定義し,その結果を用いて格子指数を持つ
  ヤコビ形式間での上記リフティング写像が存在するために必要な理論の枠組みを与えた(ジーゲン大・ N.P.Skoruppa 氏,東
  京理科大・青木宏樹氏との共同研究).
4)ヤコビ形式上に作用する算術的作用素の跡公式と上記リフティング写像の構成理論を通じて,レベルと指数それぞれに関する
  アトキン・レーナー作用素の固有ヤコビ形式全体のなす空間の構造を調べた.

本特定課題研究では,当初の研究予定であった1)や4)の成果を得るだけでなく,著名な研究者らとの研究討論や情報交換を通
して2)や3)の様な共同研究も新たに生み出し,本研究課題を急速に発展させることが出来た.なお,2),3)の成果につい
ては現在,共同研究者達と共同で論文にまとめる作業を進めている.