表題番号:2011B-295 日付:2012/04/13
研究課題アイルランドのナショナリズムと文学:フィニアン運動から復活祭蜂起を軸として
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 三神 弘子
(連携研究者) 法学学術院 教授 清水重夫
(連携研究者) 教育・総合科学学術院 教授 及川和夫
研究成果概要
本研究は、19世紀初頭から20世紀初頭にかけて、アイルランド内外で見られた政治的文化的ナショナリズムの運動が、ナショナル・アイデンティティの形成にどのように関わり、その結果どのような文学作品を生み出してきたのかという点についての総合的研究をその目的としている。研究の焦点は、19世紀後半のナショナリズム運動や1916年の復活祭蜂起などの政治的現象、事件を、文学作品がどのように表象してきたか、歴史的社会的変動の中で、フィニアン運動や復活祭蜂起がどのように<記憶>されてきたのか、といった点を中心に、総合的、横断的な検討が進められた。蜂起はなぜ起きたのか、という背景を歴史的、文化的に問い直すことから始め、蜂起そのものが与えたインパクトを政治、思想的な状況から説き起こした。さらに、実際の蜂起から、ほぼ1世紀が経過したが、その間に、復活祭蜂起が、文学作品においてどのように<記憶>されてきたかについて、総合的に検討を加え、その今日的意味を探った。
及川(散文・詩担当)が19世紀前半から後半の時代を扱い、清水(現代詩・散文担当)と三神(演劇担当)は20世紀初頭から現代までを分担した。及川の研究は、主にアイルランド特有のロマン主義と陸地測量局以降の民俗学の発展と文化の変容に焦点をあて、ジェイムズ・クラレンス・マンガン、サミュエル・ファーガソン、トマス・デイヴィスの愛国詩についてと、ブライアン・フリール「トランスレーションズ」に活写された近代化とロマン主義の接点に検討を加えた。清水は、『マイケル・コリンズ』、『麦の穂を揺らす風』の映画2作品と、ロディ・ドイルの小説『ヘンリーと呼ばれる星』(A Star Called Henry,1999)、トマス・マーフィーの劇『パトリオット・ゲーム』を取り上げ、復活祭蜂起そしてその後の自由国独立を題材としたこれらの作品を比較検討し、その後のアイルランド史のコンテクストの中に位置づけた。三神の研究は、トム・マーフィーの『パトリオット・ゲーム』(1991)のテクスト分析を行った上で、50周年記念行事(1966)と75周年記念行事(1991)が、アイルランドという社会にとって、どのような転換点となったかについて分析を行った。