表題番号:2011B-287 日付:2012/04/12
研究課題ウエイトリフティングにおける競技力と筋の分布および出力特性
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) スポーツ科学学術院 准教授 岡田 純一
研究成果概要
【緒言】ウエイトリフティング競技においては、スナッチおよびクリーン&ジャークの2種目による挙上重量の合計(トータル)によって順位が決定される。ウエイトリフティング選手を対象とした研究において、挙上動作のバイオメカニクス的研究、選手の形態および身体組成(体脂肪率、除脂肪体重、筋断面積)、あるいは筋力、パワー出力に関する検討など様々な側面から検討がなされている。
 除脂肪体重は競技成績に関わる身体的因子として確認されており(加藤ら1990、岡田ら1995)、下肢の筋断面積あるいは筋量を評価した研究においても同様の結果が報告されている(金久ら1989)。
 しかし、競技は階級制(男子8階級、女子7階級)であり、一部の階級(男子56kg級および105kg超級、女子48kg級および75kg超級)を除き、各階級では女子5-6kg、男子6-11kgの範囲の体重の者が出場していることになる。したがって、同一階級内では、ほぼ同様な除脂肪体重あるいは筋量であるもの同士が争っていることになるが、当然ながら競技成績においては選手間に差が生まれている。
 例えば、ジュニア世界選手権に出場する選手においては、技術的に他国と目立った遜色は無いにも関わらず、バーの挙上時に発揮されているパワーは同大会優勝者が35%高値を記録している(Okada et al。 2008)。すなわち、一般的傾向として競技力(挙上重量)は除脂肪体重あるいは筋断面積と相関しているけれども、それらだけでは実際の競技力を反映できていない。同程度の除脂肪体重(筋量)のものが争い、その中で挙上重量に差が生じている背景として、神経系の働きや筋断面積あたりの筋力、などがその因子として推察されるが、ウエイトリフティング選手を対象として、この点に焦点を当てた研究は報告されておらず、推測の域を出ていない。
本研究はウエイトリフティング選手の競技力の差違に影響する筋量やその分布に関する因子を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象者はウエイトリフティング競技者89名であった。その内訳は男子61名、女子28名である。さらに日本ウエイトリフティング協会医科学委員会の協力を得て、測定の機会をナショナル合宿、高校エリート合宿、および全国高校選抜大会とした。その結果、対象者の属性を女子3群(ナショナル、高校選抜、大学生)、男子4群(ナショナル高校、エリート、高校選抜、大学生)とした。しかし、全ての群に共通した測定は筋厚だけであり、身体組成は高校選抜群だけとなった。
インピーダンス法による身体組成計測器(Inbody720)によって、高校選抜群についてだけ体重、体脂肪率、除脂肪体重を求めた。筋厚の分布を評価するため、安部らの方法に基づき、右側の上腕前部、上腕後部、腹部、下背部、肩甲骨下部、大腿前部、大腿後部、下腿前部、下腿後部に探触子を当て超音波画像を撮像した。得られた画像から皮下脂肪と骨および腹腔までの距離を計測し、装置が規定したスケールを使用し実長換算しmmで表した。
【結果】男子においては、下腿後部を除いて競技レベルの高い群の方が筋厚が厚い傾向にあった。また高校選抜群が低値で高校エリート群はナショナル群に匹敵する筋厚値であった。同じく女子においては全ての筋厚値においてナショナル群が高値を示していた。
除脂肪体重と競技記録の関係については高校選抜群男女と先行研究のナショナルチーム(岡田ら1995)と中学生男子と比較した。その結果、4群ともに除脂肪体重と挙上記録の間に有意な正の相関関係を認め、且つその回帰式の傾きに差は無かったが、切片が異なっていた。すなわち同じ除脂肪体重であっても、その挙上記録のレベルが異なっていることが観察された。ナショナル群が最も高く、次に高校選抜男子群、さらにその下に高校選抜女子群と中学生男子が同様に位置していた。
【考察】筋厚分布から、競技レベルの高い群に優位であったのは、上腕後部と大腿後部が注目される。また、男子高校エリート群は高校選抜群よりもナショナル群により近い傾向にあり、高校時代に卓越した身体(ナショナルに匹敵する筋厚)を獲得した選手が、のちにその筋量あたりの出力を高めて記録を向上させていく様相が推察される。また、この傾向は除脂肪体重を筋量の指標と考えると、競技レベルの向上にともなって、筋量あたりの挙上記録の向上が主因であることが推察された。
【結論】
 ウエイトリフティング選手の挙上記録に影響の強い部位として、上腕後部および大腿後部である可能性が示唆された。また、除脂肪体重が挙上記録と相関の高い因子であるけれども、除脂肪体重あたりの挙上記録を高めることが競技レベルの向上のために求められることが推察された。