表題番号:2011B-274 日付:2014/04/10
研究課題潜在的認知の非内省的アセスメント・ツールの開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 専任講師 大月 友
研究成果概要
人間の言語や認知に対する現代の機能的・文脈的な行動分析的説明を提供するため、関係フレーム理論(Relational Frame Theory:RFT)が提唱されている(Hayes et al., 2001)。RFTでは、人間の言語や認知を複数の刺激関係にもとづいた反応(恣意的に適用可能な関係反応)として説明している。このRFTを理論的基盤として、Implicit Relational Assessment Procedure(IRAP:Barnes-Holmes et al., 2006)という言語や認知の新しいアセスメント方法が開発されている。IRAPは、特定の言語間の“関係”の報告や評価を求めるコンピュータ課題である。そして、参加者自身がすでに学習している言語関係に基づいて反応するよう求められる一致試行と、それに基づかないで反応するよう求められる不一致試行が用意されており、各試行において可能な限り早く正確に反応することが求められる。IRAPの基本的前提は、一致試行の方が不一致試行よりも早く反応できるというものである。この両試行間の反応潜時の差(IRAP効果)が、事前に確立している言語関係や関係反応の強度の指標となると考えられている。この点に関して、Vahey et al.(2010)は、IRAP効果には過去の個人の学習歴における相対的な頻度が反映されると指摘している。
そこで本研究は、このようなIRAPの基本的前提に対して、実験室において個人の学習歴(学習頻度)を操作し、事前に確立した関係反応がIRAP効果に与える影響を検証することを目的とした。
大学生33名を対象とし、学習歴の実験的操作を目的として、12名(23.3±3.9歳)を統制群、10名(20.2±1.2歳)を低頻度群、11名(21.1±1.3歳)を高頻度群にランダムに振り分けた。実験では、2つの課題を用意した。1つ目は、関係訓練とテストであり、4つの無意味つづり(A1・A2・B1・B2)の刺激関係を確立するための訓練、および、派生的刺激関係のテストを作成した。訓練フェーズでは、同類:A1・B1、反対:A1・B2、反対:A2・B1、同類:A2・B2の4種類の刺激関係を確立させた。テストフェーズでは同様の刺激呈示を行い、8種類の派生的刺激関係が2試行ずつ計16試行、フィードバックなしでテストされた。2つ目は、IRAP課題であり、A1とA2をラベル刺激、B1とB2をターゲット刺激、“同類”と“反対”を反応選択肢とした。統制群には、関係訓練とテストをせずに、IRAPを実施した。低頻度群には、訓練フェーズを56試行に設定した関係訓練とテストを行い、その後IRAPを実施した。高頻度群には、訓練フェーズを160試行に設定した関係訓練とテストを行い、その後IRAPを実施した。
 実験の結果、事前の学習歴のない統制群にはIRAP効果は示されず、学習歴のある低頻度群と高頻度群においてIRAP効果が示された。この結果は、一致試行の方が不一致試行よりも早く反応できるという、Barnes-Holmes et al.(2006)が主張するIRAPの基本的前提を支持するものと考えられる。さらに、学習歴(学習頻度)が多い群が少ない群と比較して、より大きなIRAP効果を示すことが示唆された。このことから、Vahey et al.(2010)の主張を支持するものと考えられる。本研究は無意味つづりを用い、実験的に学習歴の操作を行っている。多くのIRAP研究は、日常語を用いた妥当性の検討がなされているが、日常語を用いる場合、個人の学習歴は推測の域を出ないことが問題であると指摘されている(Roche et al., 1997)。そのため、日常語を用いた先行研究の知見に加えて、本研究のように無意味つづりを用いて厳密に実験的に検証することは、IRAPの妥当性を検証する上で有意義であると思われる。本研究の結果は、IRAPの妥当性に関する付加的な知見を提供するものと考えられる。