表題番号:2011B-266 日付:2012/04/01
研究課題沖縄離島におけるアロマザリングとしての「ネエネエヤ」の総合的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 根ケ山 光一
研究成果概要
多良間島に古くから存在するが急速にさびれ消滅しつつある「守姉」(現地の言葉でムリ゜アニ,もしくはムレネエネエと呼ばれる,少女が乳幼児の世話を任される独特の風習)について,行動観察と質問紙,インタビューによりその実態の一端を明らかにした。
まず行動観察としては,島にかろうじて残存する守姉3ケースについて,その少女の乳幼児への世話の様子を1時間にわたりビデオカメラで観察した。子どもの遊び相手というに近い関わりであったが,その間乳幼児はその少女に全面的に任され,乳幼児もすっかりその守姉になついて,その世話の間母親はその乳幼児の周囲から全く離れていた。
また,高齢者の島民を中心に,かつて自分が幼かった頃それをした・された体験についてインタビューした。その結果,守姉とは小学生くらいの女の子が,血縁のないもしくは遠縁の親から頼まれて,その赤ん坊の親代わりとなること,少なくとも3歳までは続けられ,その後も一緒に遊んだり世話をしたりして子守りをすること,しかもそれがある一時の助っ人というのではなく,その赤ん坊がずっと大きくなってもその特異的な親しい関係が維持されること,その子どもが長じて結婚するとき式に招待されたり,また壮年になっても交流をもち続け,生涯のかけがえないつながりとなることなどがわかった。守姉と子どもの二者関係にとどまらず,それぞれの家族同士が親類づきあいにも匹敵するような関係に入る。守姉の母親は「ムリ゜アンナ」と呼ばれ,守姉とともに赤ん坊の世話に関わる。いわば家族ぐるみで赤ん坊を育てていくのであり,島のネットワークの維持発展に重要な役割を果たしていた。
60歳前後27名の方に対して守姉の経験に関する簡単な質問紙調査を試行的に行った。まず,自分の子ども時代に守姉をしてもらったことがあるかどうかを尋ねたところ,1名を除いて回答があり,そのうちの15名57.7%もの人があると答えていた。今から半世紀ほど前の多良間島では,生まれてくる子どものなんと6割ほどは母親のほか守姉に(も)育ててもらった経験があった。そしてそのうちの11名,73.3%の人はその守姉に感謝の気持ちを抱いている。27名中女性は11名で,そのうち自ら守姉をしたことがあるかという質問に回答をくれたのが7名,そのうちの4名は経験ありと答えている。当時守姉はするにしろされるにしろ過半数の子どもが関わっていたわけで,ごく当たり前の光景であったことがわかった。
守姉を自身が始めた年齢は早くて7歳,遅くて11歳ということであったから,やはり小学校の中学年あたりから行うもののようだ。一生の間に1人とか2人とか,ごく少人数の世話をするようで,次々と何人も世話の相手を替えていくようなことはしない。
守姉は,少女にとっては赤ん坊に向けられたある種人形遊びのような行動で,それが島の大人の生活にとっても有用だとして許容されかつ重宝され,長い時間のなかで地域のネットワーク作りにも積極的に活用されるようになった風習であろう。今後とも注目していきたい風習である。今や風前の灯火の状況であり,この研究を手始めに研究プロジェクトを立ち上げてグループで集中的に研究していきたい。