表題番号:2011B-260 日付:2012/04/09
研究課題成体脳で神経幹細胞が維持されるための分子基盤の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 榊原 伸一
研究成果概要
哺乳動物の神経幹細胞は発生期においては神経上皮と呼ばれる脳原基の中で,特有のapicalとbasal面の極性を持つ放射状上皮様細胞の形態で存在し,特有の核の上下運動をしながら,速い速度で自己複製的分裂とニューロン,グリア細胞産生を伴う分裂を行う。大部分の神経幹細胞はニューロンの産生を終える時期に消失するが,一部は生涯に渡って海馬歯状回や側脳室,第3脳室周囲の脳室下帯(SVZ)に残り,新たなニューロンを生み出し続けることで,大人になった後のある種の記憶消去や自律神経機能調節などにも関係している事が示唆されている。我々はマウス胎児および成体SVZを用いたsuppression PCR-subtraction法により胎児期・成体脳の神経幹細胞にニューロン新生が起きる部位に発現する6個の新規遺伝子(radmis,MG46,MB14,MB61,SD35,ME55)を同定した。radmis (radial fiber associated mitotic spindle protein) は特徴的なモチーフ構造を持たず,機能的に未知の遺伝子である。radmisは胎児期の脳室周囲のventricular zone (VZ) および成体脳の側脳室周囲 SVZに少数存在するtype-B 細胞神経幹細胞の放射状細胞突起と分裂の時に一過性に現われる分裂紡錘体に局在することを明らかとした。radmisタンパクは神経幹細胞の分裂後は速やかにユビキチン化を受けて分解され,幹細胞内から除去されることが示された。そこでユビキチン化を受けないよう改変した変異型radmis遺伝子を作製し,子宮内電気穿孔法を用いてマウス胎児脳に遺伝子導入すると,脳室周囲で神経前駆細胞の分裂の亢進が起きた。現在、胎児脳室においてradmis shRNAによる機能抑制を行い、radmisの神経幹細胞分裂過程での機能をより詳細に解析している。
一方,MG46遺伝子はapical側細胞膜への局在化シグナルを持ち,EGFPとの融合タンパク質の培養細胞での強制発現の結果から,その産物は神経幹細胞の放射状形態が形成される際,一部の細胞膜直下に限局して発現する事が判明した。神経幹細胞の細胞形態の維持や極性の形成にMG49が関わっている可能性を検討するため、子宮内電気穿孔法によるマウス胎児脳でのMG49遺伝子導入を行っている。その結果,MG49発現細胞の形態以上が示唆された。現在さらにMG49タンパクの局在を検討するため、特異的抗体を作製中である。