表題番号:2011B-258 日付:2012/04/12
研究課題教師のための自己アセスメント型キャリア支援プログラムの開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 菅野 純
研究成果概要
 教師としてのキャリア発達には個人差が存在する。中年期を過ぎて、広い見識を持ち、常に積極的に児童生徒や保護者と関わり、教材研究や生徒理解研究を持続する教師がいる一方で、三十代半ばで教育への熱意を失い、遊興に走ったり、教師としての本務からどんどん離れていく教師もいる。従来こうした問題に対して決定的な方法を持ちえぬままに、子ども、保護者、そして社会から教師不信、学校不信のまなざしを向けられることも少なくない。一方、そのことの裏面には一部の熱心で真面目な教師に過重な負担がかかっており、いわゆる「バーンアウト」に陥ってしまう教師も少なくない。
 こうした現状を学校臨床心理学の立場からアプローチすべく本研究が企てられた。まず文献研究によって現代の教師たちが何に行き詰まりを感じているのかを把握した。さらに自己理解と教育指導力向上のための自己を振り返り客体化するための心理尺度の作成を試みた。
 東京都、神奈川県、埼玉県、静岡県などの小中高の教諭を対象とした事例研究と聞き取り調査を通して、現代の教師がおかれているストレス状況や教師たちが出会う指導困難事例を収集し、分析を行った。またキャリア発達の視点から教師たちがどのようにしてそうしたストレス状況や困難状況を乗り越えていくのか、克服法についても調査した。困難さを克服していくためには自分が出会っている状況を客観的に把握し、自己の能力の可能性と限界を理解し、周囲に存在する様々な支援資源を活用することが必要である。
 本研究ではそれらを自己啓発的自己理解尺度として開発し、さらに自己理解に基づく指導力を底上げするためのワークブックの作成を試みた。その一部は複数の教師に試み、文言や実践的効果についてのフィードバックを得た。またワークブックについてはこれまで開発してきた生徒のための自己理解心理尺度KJQを参考に、教師の抱える困難を整理できるよう改良を行ってきた。
 まだ完成形ではないが、本研究過程を通して今後さらにデータを重ねることでより広汎な応用可能なものになることを確信した。