表題番号:2011B-256 日付:2012/04/18
研究課題骨格筋の可塑性に及ぼすβ2-アドレナリン受容体発現レベルの応答とその機能的役割
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 今泉 和彦
(連携研究者) 人間科学学術院 助手 白土 健
研究成果概要
【研究の背景と目的】骨格筋サイズは筋活動量の増減によって可塑的に変動する。一方、最近では高齢者や各種疾患者および宇宙飛行士の筋萎縮の予防や筋萎縮からの回復を目的とした研究が進展している。これまで、私達はこのような骨格筋の可塑的なサイズ変化の一部を担う生体内のホルモン受容体のうちβ2-adrenergic receptor(β2-AR)およびglucocorticoid receptor (GR)の発現レベルの変化について系統的に研究してきた。そこで本研究では、身体不活動による筋萎縮機構をさらに明らかにするため、ギプス固定によってラットの筋活動量を著しく低下させたとき、骨格筋内のβ2-ARと GR mRNA・タンパク質発現レベルがどのように応答するかをしらべた。【方法】約8週齢の雄性Sprague Dawleyラットをpentobarbital(dose=45mg/kg body weight)麻酔下で膝関節および足関節をギプスで固定した群と対照群とに群分けをし、その11日後に遅筋線維の比率が高いヒラメ筋(SOL: soleus)と速筋線維の比率が高い長指伸筋(EDL:extensor digitorum longus)を摘出・秤量した。両骨格筋のRNAおよびタンパク質を常法により抽出し、GRとβ2-ARの遺伝子発現はreal-time RT-PCR法で、タンパク質発現はWestern blot法で定量した。【結果】ギプス固定によりラット骨格筋の相対重量、総RNA量および総タンパク質濃度はSOL筋で低下したが、EDL筋では変化しなかった。これらの結果より、ギプス固定による筋萎縮作用は抗重力筋の遅筋に対して特異的であることが確認された。実験期間中の血漿内アドレナリン・ノルアドレナリン・コルチコステロンの各濃度はギプス固定によって変化がみられなかった。筋内GR mRNA・タンパク質発現はギプス固定によりSOL筋で特異的に低下した。骨格筋細胞内のGRおよびリガンドの複合体は筋萎縮関連遺伝子の転写を正に制御していることから、GR発現レベルの低下は遅筋での筋萎縮に対する抑制的な応答であると推定できる。また、β2-AR mRNA発現もギプス固定によりSOL筋で特異的に低下したが、β2-ARタンパク質発現は両筋共にギプス固定による変動がみられなかった。β2-AR遺伝子上にはglucocorticoid receptor element(GRE)が存在することから、GR発現量の低下によってβ2-ARの転写が抑制されたものと推定できる。【結論】ギプス固定によりGR発現レベルは遅筋のSOL筋で特異的に低下する。その結果、GRの下流シグナル伝達が抑制され、筋タンパク質分解やβ2-ARのような標的遺伝子の発現あるいは抗炎症反応などの応答が弱まるものと推定できる。