表題番号:2011B-245 日付:2012/04/05
研究課題発展途上国・新興国における知的財産権保護戦略の経済学的調査研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 教授 土門 晃二
研究成果概要
本研究では、まずベトナムでのフィールドワークを実施し、バイク市場での模倣部品の実態調査を実施した(科学研究費追加採択のため、途中から本研究は科学研究費による研究に移行し、本研究費の1/10以下を使用)。ベトナムを対象とした理由は、モータリゼーション前夜の経済状況でバイク市場規模が大きく、また知的財産権侵害の取り締まりがほとんど行われていない状況で、正規部品と模倣部品の競合関係を調査することが可能である点にある。対象地域は、ホーチミン市を中心とした都市部、および中部内陸(プレイク)・沿岸部(クイナン)の地方都市である。

その調査によって、違法行為の巧妙さ(正規ディーラーの修理工が新車の部品を販売前に模倣品に変えて、町の修理工場に販売する、等)や、模倣部品による人身事故被害者による取り締まり強化への声、規制当局の取り締まり実態(メーカー、弁護士、政府機関関係者によるワークショップを開催)の概要が明らかになった。一方で、安い模倣部品の需要も大きく、主に中国から入ってくる模倣部品は、すぐに壊れることは分かっていても貧困層による需要ある。最も安いバイクは中国製であるが、その中間として日本製バイクのエンジン部分やサスペンションを中国製品に換え、ボディー・カバーの模造品を使用して、外見上は日本製品と区別できないようにしているバイクも多く販売されている。また、模倣部品製造企業にも高品質の部品を供給しているものもいるが、パッケージやロゴなどは日本製正規部品メーカーのものを模倣しており、このことは商標の意義・利益の大きさを証明しているともいえる。

その他、本研究では理論的な研究として、国際間における著作権保護期間の競合関係について考察を行った。その中で、各国の需要や費用、財のバラエティー、需要弾力性の違いを考慮して、著作権更新制度と有限期間著作権保護制度との比較を行い、パラメーターの違いによる両制度の優位性の違いを検証した。需要が非弾力的で財のバラエティーの効用が大きい場合には、著作権更新制度がグローバルな経済厚生向上のためには効果的であることを、シミュレーションで明らかにしている。この分析には、パラメーターの設定によって途上国と先進国の競合関係も含まれている。国際学会で、この成果は発表された。