表題番号:2011B-225 日付:2012/03/27
研究課題画像処理LSIプラトフォーム設計技術の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 後藤 敏
研究成果概要
 現在の情報通信技術ではテキスト、音声、静止画像、動画像という様々なマルチメディア情報を扱っているが、データの種類、特性や重要度をほとんど考慮せず、一括して同じ処理方式を採用している。例えばマルチメディアデータ伝送を行う際に、データの内容に関わらず、データ圧縮を行い、暗号化し、誤り訂正符号化を個々に行ってデータを処理する方式が取られている。各処理を独立した異なるハード機器を用いて実行するために、無駄な計算処理、ハードウェア機器の増加、ソフトウェア処理の増大化を招き、全体の電子機器の規模が増加し、消費電力を大幅に低減できない状況となっている。また、メディアの多様化と大容量化に伴い、従来の延長上の技術では、処理するための消費電力が指数関数的に増加してしまうために、革新的な技術の開発が望まれている。
 超低消費電力メディア処理SoCの実現のため、画像、暗号、誤り訂正符号の各方式の最適な分担およびアルゴリズム最適化手法、さらにはハードウェア・ソフトウェア実装最適化手法を融合させ、従来技術と比較して1/100の電力削減を図ることを目標に掲げて研究を進めた。(1)方式・アルゴリズムレベルでは、メディア処理で最も計算量を必要とする画像圧縮問題に取組み、画像の動きを予測し、必要な演算量に応じてプロセッサの周波数を動的に変化させる方式を考案してマルチコアシステム上に実装し、監視系システムへの応用において消費電力を平均46%、最大78%削減することができた。また、TV会議ではRoI(Region of Interest)方式を導入し、RoI(顔)の領域を精度よく検出・圧縮することにして、RoI以外の部分は品質は落とし、RoI部分は高品質に保つ手法を取り入れることでエンコーダの演算量を平均で76%削減した。 (2)チップ試作では、動画像符号化/復号化、誤り訂正符号、暗号を対象にLSIを試作し電力消費を大幅に削減した。動画像符号化ではハイビジョン(H.264)対応のエンコーダLSIを開発し、過去の最良なものと比較し約50%の電力削減を行った。動画像復号化に関しては4096x2160対応(H.264)デコーダLSIを試作し、従来比で約60%の電力削減を確認した。誤り訂正符号ではLDPC方式を対象にしたLDPCデコーダLSIを開発し、従来比で約90%の電力削減が行えた。また暗号ではAES暗号LSIを開発し、約50%の電力削減を確認した。

顕著な成果としては以下が挙げられる。

1.低消費電力ビデオエンコーダシステム
マルチコアプロセッサ上に独自に開発した動き差分方式に基づくビデオエンコーダを実装し、必要な演算量に基づき、各コアの周波数(電圧)を動的に変化させる制御方式を組込んだシステムを試作した。従来方式に比べて、平均で48%、最良で78%の電力削減を達成した。ICME2010国際会議で発表し、SPIC(2011年3月号)に掲載された。またISLPED2011やICME2010でデモ展示を行い、ISOCC2010会議で優秀論文賞を受賞した。

2.4kx2kビデオデコーダLSI
概要:
4096x2160対応のH.264ハイプロファイル復号LSIを開発し、60枚/秒を処理し、従来比で約60%の電力削減を行うことができた。IEEE VLSI Symposium2010で発表し、IEEE JSSC(2011年4月号)に掲載された(24)。ISPLED2010で優秀デザイン賞、VLSI Symposia2011で最優秀学生論文賞を受賞した。

3.人物検出のSTPエンジン
概要:
早稲田大学で開発した人物検出アルゴリズムをルネサスが担当して、PC(Core2Duo@3GHz)とSTP(動的再構成プロセッサ:Stream Transpose)上に実装し、消費エネルギーを実測した。PCと比較して約98%のエネルギー削減を行うことを実証することができた。ISLPED2011を含め多数のデモ展示を行った。