表題番号:2011B-204 日付:2012/05/17
研究課題パルス型中性子発生器と組み合わせた高速核分光器の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 長谷部 信行
研究成果概要
月・惑星表層物質の元素組成は、表面だけでなく内部物質へのプローブでもあり、月の形成とその後の進化を知る上で非常に重要な観測量である。蛍光X線分光法や核分光法は、宇宙機の軌道上からの遠隔探査や月面走行車でのその場観測で、月・惑星物質を構成する元素分析方法として大変有力な手段である。元素組成の定量分析を行うために、強度の弱い太陽X 線、銀河宇宙線を励起源とする遠隔探査から、能動型蛍光X線分光装置、能動型核分光装置によるその場観測へと移り、より精度の高い測定が要求されることになるだろう。SELENE-2の搭載機器候補として能動型核分光装置AGSの搭載は、重量や電力の制約から見送ることになり、AGSは将来のミッション機器として今後も検討・開発を進めることになった。そこで本研究では、軽量・小電力型化学分析装置として高性能・能動型蛍光X線分析装置AXSが適当であると判断して、基礎開発を進めていくことに変更した。この研究班は、早稲田大学、韓国、米国、ドイツとの共同研究である。
能動型蛍光X線分光装置AXSとしては、軽量・小電力のX線発生装置XRGとして焦電結晶を用い、一方蛍光X線検出器としてはSilicon Drift Detector (SDD)使用して構成することになった。特に、XRGとしては焦電素子のX線源を用いてAXSの月惑星探査機の搭載機器に向けた基礎開発を行う。小型軽量化と省電力化の実現、および予想される温度環境での特性の維持を実証する。AXSは、元素の濃度に依存するが、主要元素:Mg, Al, Si, Ca, Ti, Fe,マイナー元素:Na, K, P, S, Cl, Cr, Mn, トレース元素:Ni 等の元素濃度5%以下の精度で測定できることを目標とする。
そこで、本年度は、分析用の真空チェンバーの作成、分析試料の表面の粗さに関する分析精度への影響、X線照射の入射角度と出射角度の元素分析精度への影響、X線強度変動と元素分析精度への影響について調べた。
また、高輝度(市販の数倍~10倍)の発生装置の開発、元素分析精度の温度依存性、X線強度と消費電力、希薄気体の密封法、ガスの種類とはX線発生強度、X線強度と焦電素子の種類などについての基礎研究、特に軽量及び省電力化に関連した高輝度・高エネルギー分解能のX線計測が短時間で実施できるシステムの開発に着手した。