表題番号:2011B-200 日付:2012/03/05
研究課題窒素循環に寄与する未培養微生物を標的とした新規分離培養手法
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 常田 聡
(連携研究者) 理工学術院 助教 大坂 利文
(連携研究者) 理工学総合研究センター 招聘研究員 青井 議輝
(連携研究者) 大学院先進理工学研究科 博士後期課程 藤谷 拓嗣
研究成果概要
 硝化は地球規模の窒素循環や,排水または浄水からの生物学的窒素除去プロセスにおいて重要な反応過程である。しかし硝化に関わる微生物の多くが難培養性であることから現在までに分離培養されている菌株は少ない。本研究では培養株が特に少ない亜硝酸酸化細菌Nitrospiraの獲得を実証モデルとして,3つのステップからなる新規分離培養手法を確立した。
 まず,1)下水処理場の活性汚泥をサンプルソースとし亜硝酸塩を含有する無機性の基質を連続的に供給した集積培養槽内でNitrospiraの高度集積化を行った。槽内の亜硝酸濃度を厳密に制御することで系統学的に異なる2種類のNitrospiraを選択的に集積化することが可能であった。つづいて,2)セルソーターを使用し,サンプル中に形成されているマイクロコロニーの大きさと物理的構造の複雑性に基づいて分画することで,Nitrospiraのみから形成されるマイクロコロニー(10-10^2細胞の凝集体)だけを特異的に分取することに成功した。最後に,3)分取したマイクロコロニーをマルチウェルプレートに一つずつ播種し,亜硝酸塩を含有した培地で培養した。その結果,一つのマイクロコロニーからNitrospiraが10^6-10^7 細胞/ mlまで増殖したことを確認できた。培養を行った924サンプルのうち,Sublineaege I に属するNitrospiraの純菌株を5株,Sublineaege IIに属するNitrospiraの純菌株を4株獲得した。これによって,世界で初めて活性汚泥から系統学的に異なった2種類のNitrospiraの分離培養に成功した。さらに,数日間の亜硝酸濃度と硝酸濃度の変化をモニタリングした結果,獲得した2菌種はどちらも亜硝酸酸化活性を持つことが明らかになった。また,電子顕微鏡を用いて獲得した2菌種の観察を行った結果,2菌種とも厚い細胞外ポリマーを持ち,絡み合うようにマイクロコロニーを形成していることがわかった。
 硝化に関わる多くの微生物がNitrospiraと同様,環境中でマイクロコロニーを形成することが知られているため,本研究で確立した新規分離培養手法は硝化細菌全般への応用が可能である。