表題番号:2011B-199 日付:2013/11/11
研究課題バイオ医薬品運搬システム構築のための薬物担持リピッドナノシートの創製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 武岡 真司
研究成果概要
研究代表者は、リン脂質二分子膜小胞体(リポソーム)を用いたドラッグデリバリーシステムの研究と開発を行っている。特に、リポソームに抗体を結合させたり、遺伝子を担持させる研究を進めてきた。一般にバイオ医薬品(抗体、酵素、遺伝子など)は高価であり、これをリポソームに内包させるためには内包効率を如何に向上させるかが課題となる。他方、研究代表者は、医用高分子からなるナノシートの開発に成功し、ナノ絆創膏などとして医療応用を目指している。本研究では、犠牲膜法でナノシートを構築する手法をヒントに、ポリビニルアルコール(PVA)の様な水溶性犠牲膜上に当研究室で保有しているカチオン性アミノ酸型脂質、ポリエチレングリコール結合脂質をコーティングしてナノシート(約5~10nm厚)を形成させ、そこに反対電荷のバイオ医薬品(アニオン性の成長因子、酵素、遺伝子)水溶液をキャストし、さらにカチオン性脂質のナノシート(約5~10nm厚)を形成させて3層構造を形成する方法を検討した。これを基板ごと水槽に浸漬させることで、犠牲膜であるPVA層が水に溶解し、3層構造の薬物担持リピッドナノシートが遊離する。リピッドナノシートは分子集合体であるため、水和と共に高速撹拌などでずり応力を加えると分子集合が再構築され、薬物を内包した二分子膜小胞体構造が得られ、ずり応力を撹拌速度やホモジナイザー、超音波照射によって強くするとそれに応じてリポソームの粒子径が小さく制御される。本法の利点は、アニオン性のバイオ医薬品の担持効率を究極に高めることであり、若干の漏出は溶解したPVAを限外濾過にて除去する際に除去できる。検討の結果、この方法の最大の課題はバイオ医薬品(例えば成長因子)のキャスト後の状態であった。スピンコート法で形成されたリピッドナノシートに成長因子をキャストした場合、凝集や相分離など不均一な状態で乾燥するとその上に平滑なリピッドナノシートを構築することができない。成長因子をスピンコートすることで平滑なナノシートを構築することができるものの、スピンコート時に相当量の成長因子が損失してしまうことも明らかとなった。ダイコーターなどで成長因子をコートし、更にその上にリピッドナノシートを構築する方法が有効と思われた。しかし、そのためにはマイクログラビアなどの薄膜連続作成装置ならびに多量のリピッドとバイオ医薬品(例えば成長因子)を必要とするので、経済的な理由で進めることができなかった。しかし、この検討により、アニオン性バイオ医薬品をカチオン性多糖類とポリイオンコンプレックスを作らせてナノシートに担持させる手法の契機になり、次に繋がる展開となった。