表題番号:2011B-198 日付:2012/03/25
研究課題死細胞から放出されるシグナル分子の同定とその病態生理学的役割の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 合田 亘人
(連携研究者) 先端科学・健康医療融合研究機構 講師(任期付) 松田 七美
研究成果概要
細胞競合とは、増殖が速い生存細胞群(勝ち組)が、増殖が遅く細胞死によって排除される死細胞群(負け組)に競合し、細胞死、細胞の増殖と周期、分化などが統合的に制御されることにより、一定の大きさと機能をもつ器官が形成される現象である。これまでに細胞競合制御因子として、癌遺伝子c-MycのショウジョウバエホモログdMycが報告されているが、その分子機構は不明である。研究分担者である松田は、ショウジョウバエの翅原基、及び培養細胞株を用いて、dMycにより制御される細胞競合モデルを確立し、予備的解析より死細胞-生存細胞間の細胞運命決定に、それぞれの細胞群における1)エネルギー代謝変化、2)分泌因子が関わることを見いだした。本研究では、分子生物学的・生化学的解析、及びメタボローム解析により、競合する死細胞と生存細胞それぞれの細胞特性変化とエネルギー代謝ステータスとの関係の網羅的分析、及び新規細胞競合制御因子の同定と機能解析を行うことより、細胞競合の分子機構の解明を目指した。
 ショウジョウバエ培養細胞株S2を用いたin vitro細胞競合モデル系において、勝ち組細胞と負け組細胞におけるエネルギー代謝ステータス解析系の構築を行った。勝ち組となる高dMyc細胞(メタロチオネインプロモーターの下流にdMycを連結させたベクターの導入により、CuSO4処理によりdMycを発現誘導できる安定発現細胞株; pMT-dMyc/S2細胞)と、負け組となる低dMyc細胞(アクチンプロモーターベクターの導入により核移行シグナル付きGFPを恒常的に発現する野生型細胞株; pAc5.1-GFP/S2細胞)を共培養する技術を応用し、3通りの方法((i)直接共培養系、(ii)間接共培養系、及び(iii) 単培養系における直接共培養上清アッセイ系)により、dMycにより制御される細胞競合のモデルを作製した。それぞれのモデルにおいて、細胞死の初期マーカーである活性型カスパーゼ-3抗体による免疫染色、及び細胞増殖解析による細胞特性評価系をセットアップした。(iii) の単培養系における直接共培養上清アッセイ系を用いて、定量的PCR解析により、競合する勝ち組細胞(生細胞)と負け組細胞(死細胞)における糖代謝関連因子について、解析を行った。その結果、勝ち組となる細胞群(生細胞群)において、グルコーストランスポーターGLUT-1、及びGLUT-3の顕著な発現上昇(10〜15倍)がみられ、一方、負け組となる細胞群(死細胞群)においても、GLUT-1、及びGLUT-3の上昇(2〜3倍)がみられることが明らかとなった。さらに、勝ち組、及び負け組の両細胞群において、RNA干渉法によるGLUT-1、及びGLUT-3の機能抑制を行ったところ、勝ち組(生細胞)、あるいは負け組(死細胞)としてのそれぞれの特性が失われ、細胞競合が認められなくなることが明らかとなった。これらの結果は、両細胞群の代謝ステータスの変化が、細胞競合が生じるために必要であることを示唆している。
 現在、(iii) の単培養系における直接共培養上清アッセイ系を用いて、勝ち組となる細胞群(生細胞群)、及び負け組となる細胞群(死細胞群)における代謝ステータスの詳細について明らかにするため、メタボローム解析を行うための準備を進めている。