表題番号:2011B-197 日付:2013/07/23
研究課題低酸素応答システムによる肝脂肪蓄積制御の分子基盤の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 合田 亘人
研究成果概要
肝実質細胞に脂質が蓄積した状態は脂肪肝と総称され、肥満、糖尿病、アルコール過剰摂取などの生活習慣に起因する肝疾患の最もありふれた初期病態である。これまで脂肪肝は可逆性の良性肝疾患と捉えられてきたが、しかし近年、慢性化した脂肪肝の一部が脂肪性肝炎、肝硬変、さらには肝細胞がんへと進展することが明らかになり、これらの疾患に対する効果的な治療法や予防法の開発のために脂肪肝発症に係わる分子メカニズムの解明が急務となっている。
これまで我々は、脂肪肝の発症過程で生じる低酸素環境が病態の形成および進展に係わっていると仮説を立て、病態モデルマウスを作成してその検証に取り組んできた。その成果として、生体内における低酸素応答の中心分子であるhypoxia inducible factor-1 (HIF-1)が、アルコール性脂肪肝の進展に対して抑制的に働く防御因子であることを明らかにしてきた。本研究では、HIF-1による肝脂肪蓄積抑制機構に係わる分子メカニズムの解明に取り組んだ。まず、HIF-1欠損マウス(HIFKO)で認められた脂肪蓄積増強機構に、脂肪酸合成系の活性化が関与している可能性を考え、定量的RT-PCR法を用いて遺伝子発現解析を行った。その結果、解析した脂肪酸合成に係わる全ての遺伝子が、エタノール混餌食4週間投与によりコントロールマウスと比較して増加していることが明らかになった。また、エタノール混餌食を2週間投与したHIFKOマウスからの肝臓を同様に解析したところ、脂質代謝の中心的な転写制御因子であるsterol regulatory element binding protein (SREBP)1cおよび下流の標的遺伝子のacetyl CoA carboxylase (ACC)以外の遺伝子は、エタノール混餌食2週間投与時より減少していることが明らかになった。一方、SREBP1cとACCの遺伝子発現は、エタノール混餌食投与により時間依存性に増加し、4週間の投与によりHIFKOマウスとコントロールマウスの間でさらに発現量の差が著明になることが明らかになった。次に、SREBP1cの制御にアディポネクチンが関与している可能性を考え、血清中アディポネクチン濃度の測定を行った。その結果、コントロールマウスでは食餌投与後2週間に一過性の上昇が認められ、4週間でも投与前より増加していることが明らかになった。一方、HIFKOマウスもコントロールマウスと同様な反応を示し、両者間で差が認められなかった。以上の結果より、エタノール性脂肪肝形成において、肝臓内HIF-1がSREBP1cとACCの遺伝子発現抑制による脂肪酸合成低下を介して病態防御的に機能することが示された。