表題番号:2011B-187 日付:2012/04/13
研究課題フラビン結合タンパク質クリプトクロムの多彩な分子機能の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 岡野 俊行
研究成果概要
 近年の研究から、多くの動物において網膜外のさまざまな組織に多様な光受容分子が存在し、外界の光を受容していることが明らかになってきた。このような光センサーのひとつとしてクリプトクロムが注目されている。昆虫では、クリプトクロムが青色光センサーとして機能していると同時に、光依存的な磁気センサーとしても機能すると考えられている。一方、脊椎動物では、概日時計に関わることは明らかになっているものの、光や磁気の受容に関与するかどうかは不明な点が多い。そこで本研究では、申請者がこれまで行ってきた光受容の研究に立脚しつつ、脊椎動物のクリプトクロムの光受容系と多様な機能の解明を目指した。
 脊椎動物のクリプトクロムが概日時計以外の光応答現象に関わっている可能性を探るため、月齢に依存した産卵現象を示す熱帯性魚類であるゴマアイゴに着目した。まず、ゴマアイゴのクリプトクロム遺伝子を単離し、概日時計に関わる機能を調べたところ、概日時計の発振分子としての機能は見られなかった。そこで次に、月齢や性成熟との関連を調べたところ、産卵に伴う月齢応答に同期して脳の視床下部領域で発現変動していることを見いだした。このことからゴマアイゴのクリプトクロムは、概日時計よりむしろ月齢応答に関与していると考えられた。
 これと並行して、青色光受容体候補分子としてのクリプトクロムの光受容メカニズムを探るために、培養細胞を用いたクリプトクロムの大量発現系の構築を試みた。大腸菌・バキュロウィルス・真核培養細胞等を検討したところ、真核細胞の一種である酵母において、ニワトリクリプトクロム4を高発現させることに成功した。この系を用いて発現したクリプトクロムは発色団であるFADと結合しており、光刺激に応じて吸収スペクトルの変化が観察された。このことから、光受容体としての活性を維持した状態で精製できたと考えられた。今後は、精製のためのタグの検討や、他のサブタイプのクリプトクロムの発現を進め、吸収スペクトル解析と同時に、レーザー分光やX線結晶構造解析、あるいは、相互作用タンパク質のプロテオーム解析を行う予定である。