表題番号:2011B-186 日付:2012/04/13
研究課題ゼブラフィッシュにおける選好方位の行動制御メカニズムの解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 岡野 俊行
研究成果概要
古くから、鳥類(ハト)をはじめ、魚類(サケ)・爬虫類(カメ)など幅広い動物が、地磁気情報を広範囲な移動に利用していることが示唆されてきた。近年、行動学的研究が数多く行われ、驚くべきことに、イモリやカエルといった広範囲の移動を伴わない生物にも地磁気を感じる能力があることが明らかになってきた。これはおそらく帰巣や定位に利用されていると考えられているが、そのメカニズムはまだほとんど不明である。光エネルギーを受けたクリプトクロム分子にラジカル対が生じ、ラジカル対が磁気効果を受けることによって、クリプトクロムが磁気センサーとして働くとするラジカルペア仮説が提唱されているが、そのメカニズムの詳細はほとんど不明である。脊椎動物の地磁気応答の分子機構の研究が遅れているのは、モデル脊椎生物において磁気的応答が見出されていないことが一因である。
 このような背景の下、申請者らは、ゲノム配列が決定されておりモデル生物としての有用性が確立しているゼブラフィッシュに着目した。磁気応答性の有無を検討するため、種々の方法で予備的な解析を行った結果、ゼブラフィッシュの成魚が地磁気レベルの磁気に応答して定位行動を示すことを見いだした。そこで本研究ではさらに、この定位行動の詳細を解析した。地球上の緯度によって地磁気のベクトルは大きく異なっているため、実験室内で自在に地磁気の方向や強さを変化させられる地球磁場シミュレータを作成した。この装置を用いて、地磁気レベル磁気に対する応答性を調べたところ、(1)ゼブラフィッシュが一定の方位に向かうという選好方位を示すこと、(2)選好方位の方向は2方性であること、(3)選好方位の方向は動物集団によって異なること、(4)同一の親から生まれた集団は類似の方向を示す傾向があること、(5)方向性の有無は性や月齢あるいは飼育環境による影響を受けないこと、などを発見した。以上の結果は、ゼブラフィッシュが地磁気を感知して一定の方位を示すことを明確に示しており、モデル生物としての利点を生かすことによって、未知なる磁気受容の分子メカニズムに迫るための突破口が開かれたといえる。