表題番号:2011B-182 日付:2012/04/13
研究課題熱刺激赤外吸収法の開発と有機半導体薄膜におけるキャリアトラップの化学構造解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 古川 行夫
研究成果概要
熱刺激赤外分光法の開発の第一歩として,有機薄膜太陽電池の活性材料として高い光電変換効率を示し,代表的な材料となっている,位置規則性ポリ(3-アルキルチオフェン)(アルキル=ヘキシル,オクチル,ドデシル)と[6,6]-phenyl-C61-butyric acid methyl ester (PCBM)の混合物(バルクへテロ接合)薄膜に関して,532 nmのレーザー光を励起光として,差フーリエ変換赤外分光測定法により,光誘起赤外吸収を観測した.観測されたスペクトルは幅広い電子遷移と振動遷移が干渉した複雑なバンド形を示した.このスペクトルは,高分子鎖の上に生成した正キャリア(正ポーラロン)に由来することが明らかにされている.観測した赤外吸収強度の温度変化を測定したところ,78 Kから昇温すると,強度が弱くなり,この結果は,正と負のキャリアの再結合過程の速度が速くなっていることを示唆している.正と負のキャリアの再結合過程(2分子反応)を速度式で表し,反応速度定数が活性化型で表されると仮定して,観測された温度依存性を解析した.その結果,2種類の並列した再結合過程が存在し,それらの過程に付随する活性化エネルギーを求めたところ,位置規則性ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT):PCBM混合物薄膜では15と81 meVであった.太陽電池では活性層を加熱処理することにより,光電変換効率が上昇することが知られており,P3HT:PCBM薄膜を加熱処理したのち,同様な実験を行ったところ,活性化エネルギーは15と52 meVになった.81 meVの活性化エネルギーはキャリアが高分子鎖間を移動する際のトラップと考えると,加熱処理により,高分子鎖のパッキングが密になり,高分子間移動が容易になると解釈できる.また,アルキル基がオクチル基とドデシル基の場合に関しても,活性化エネルギーを求めた.光誘起赤外吸収により得られるキャリアの活性化エネルギーは,有機薄膜太陽電池の研究に有用である.