表題番号:2011B-179 日付:2017/03/23
研究課題糖類の高感度分析のためのボロン酸金属錯体試薬の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 石原 浩二
研究成果概要
 ホウ酸の一置換体であるボロン酸(RB(OH)2)は、水溶液中で糖類と可逆的に反応し、安定な錯体を生成するため、旧くから糖類のセンシングのためのボロン酸誘導体が数多く合成されているが、それらの殆どは有機化合物である。当研究室では、金属錯体の分光学的特性が配位子の電子的性質により多様に変化することを利用して、金属錯体を検出場とするホウ素の定量試薬の開発を行ってきた。
 本研究では、ボロン酸を配位子として有する新規金属錯体を合成し、その錯体による糖類の高感度定量の可能性を検討した。中心金属イオンとしては、錯体の合成が比較的容易であると考えられるPt(II)を選び、配位子としては、2,2’-ビピリジン(2,2’-bipyridine, bpy)、テルピリジン(2,2’,6’,2”-terpyridine, terpy)、および pKaが低い3-ピリジルボロン酸(3-PyB(OH)2, 3-PyB)を選び、[Pt(bpy)Cl2]および[Pt(terpy)Cl]Clを合成した。そしてそれらを原料として、それぞれ[Pt(bpy)(3-PyB)2](NO3)2 (1) および [Pt(terpy)(3-PyB)](NO3)2 (2) を合成し、単離した。分光光度法によりこれらの錯体(1), (2)のボロン酸部位のpKa (25 ºC, I = 0.10 M)を測定したところ、錯体(1)に対して pKa1 = 5.1、pKa2 = 9.32、錯体(2)に対してpKa = 4.5が得られた。また、これらの錯体の紫外可視吸収スペクトルは、D-fructoseと反応して比較的大きく変化するため、D-fructoseの吸光光度定量は可能ではあるが、モル吸光係数がさほど大きくないため高感度分析は不可能であることが分かった。そこで次に、phenylpyridine (ppy)や1,3-di(2-pyridyl)benzene (dpb)を配位子として有する発光性の新規Pt(II)錯体の合成を試みた。dpbは市販されていないため自前で合成した。K2PtCl4を原料として、[Pt(dpb)Cl]と[Pt(ppy)(ppyH)Cl]を合成し、単離した。これらの錯体を原料として[Pt(dpb)(3-PyB)]と[Pt(ppy)(ppyH)(3-PyB)]の合成を試みたところ、粗結晶が得られた。これらの錯体は粗結晶状態でも溶液状態でも紫外光照射により鮮やかに発光することが確認された。現在、これらの錯体の精製を行っている。