表題番号:2011B-177 日付:2013/04/04
研究課題超重力・超弦理論に基づく素粒子模型の現象論
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 安倍 博之
研究成果概要
互いに排他的な側面をもつ素粒子標準理論と重力理論とを統合する試みにおいて、基本構成要素を点粒子から紐に拡張して考える超弦理論は、そのような統一理論の最有力候補として盛んに研究されている。超弦理論が矛盾なく定義できるのは時空の次元が10の場合であり、超対称性と呼ばれる、ボーズ場とフェルミ場の入れ換えの下での不変性も要求され、その低エネルギー有効理論としては高次元時空の超重力理論や超対称ヤン・ミルズ理論が現れることが知られている。本研究では、超弦理論の予言する超対称性と余剰次元空間の存在に注目し、超重力理論や超弦理論に軸足を置いた素粒子模型の構築と、それらの現象論を系統的に解析する手法の開発に向けた研究を行った。まずボトムアップ・アプローチでは、フレーバー電荷の違いから観測されている素粒子の世代間階層構造を説明することが可能な5次元超重力理論に基づく模型を構築し、そこでの超対称性の破れの構造を精密に解析することで、今後の発見が期待されている超対称パートナー粒子の性質を明らかにした。この結果では、超重力理論でしばしば問題となる超対称スカラー粒子の不安定性やそれらの粒子が引き起こす過剰な世代間遷移の問題を回避可能なフレーバー電荷の組み合わせが存在することが示され、これは超重力理論に基づく素粒子模型の構築に対して重要な指針を与える。これらの成果に関しては International Workshop: Extra Dimensions in the Era of the LHC (12-14 December 2011, Osaka University) と日本物理学会第67回年次大会において研究協力者が発表を行った。また、成果をまとめた論文[1]は学術雑誌に掲載された。一方、トップダウン・アプローチでは、10次元超対称ヤン・ミルズ理論の余剰次元に磁束が存在するような場合に、作用を4次元時空の超対称性の言葉で書き表した後に次元縮減を行うことを提案し、これに基づき4次元有効理論を系統的に導出する手法の開発を行った。背景磁場が存在する場合の様々なDブレーン配位に対する低エネルギー有効理論の導出にこの手法を応用することが可能であると考えられるため、超弦理論に基づく素粒子模型の構築とその現象論的解析に有用である。これらの成果に関しては、日本物理学会2011年秋季大会・第67回年次大会において研究協力者が発表を行った。また、成果をまとめた論文[2]は学術雑誌に掲載された。