表題番号:2011B-170 日付:2012/04/14
研究課題ゲル構造体の自己複製のためのゲル接着制御に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 橋本 周司
(連携研究者) 理工学総合研究センター 招聘研究員 前田真吾
(連携研究者) 先端科学・健康医療融合研究機構 招聘研究員 原雄介
研究成果概要
ゲル構造体の自己複製のためのゲル接着制御対象として、ナノファイバーゲルおよびチューブ型ゲルアクチュエータの開発を行うとともに、自走するゲルの設計と走行試験を行った。特に、可逆的な接着制御可能な物理ゲルに着目して、アルギン酸を金属架橋したゲル構造体によるカプセル型のゲルロボットを検討した。脂肪酸無水物である無水オレイン酸と,水よりも比重が大きいニトロベンゼンを混合した油滴を塩基性水溶液中に浸漬し、油滴内部に含まれる無水オレイン酸が加水分解のエネルギーで自走することが知られている.本研究では,この反応系を膜で包みこみカプセル化することで、カプセル内で油滴が自走し,その結果カプセル全体が回転し,移動させることに成功した.具体的には,反応系を膜で覆う手法として,アルギン酸のゲル化技術を採用する.アルギン酸のゲル化とは,アルギン酸ナトリウム水溶液を,カルシウムイオンを含む水溶液に滴下することで架橋されゲル化する手法である.滴下方法として,三重ノズルを用いることで,アルギン酸ゲルのカプセル内部に油滴と塩基性溶液を閉じ込めることができる.三重ノズルにおいて,中心のノズルに無水オレイン酸とニトロベンゼンを混合した油,二番目のノズルに塩基性溶液,外側のノズルにアルギン酸ナトリウム水溶液を,各々チューブを介しポンプにより注入する.そして各溶液を同時に塩化カルシウム水溶液へ滴下する.以上により,油滴が塩基性溶液中で自走する反応系をアルギン酸のゲルで包みこんだカプセルとなる.塩基性溶液は水酸化ナトリウムを用いてpH11に調整した.創製したカプセルを水中に静置させ,ゲルの駆動を観察した.無水オレイン酸の加水分解反応によるエネルギーが,カプセルの回転駆動のエネルギーに変換されたと考えることができる.実験結果の駆動の様子について,カプセルは一様の速度ではなく,運動したり停止したりする.この理由として,カプセル内部において油滴が直線運動をしておらず,直線運動と振動運動をしているためである.カプセル内部では油滴が加水分解反応を起こす過程で,生成したオレイン酸を進行方向に対して尾部から排出している.そのため油滴の駆動範囲が狭まり自走を阻害していると考えている.この問題はカプセル内部の油滴の駆動範囲,すなわち塩基性水溶液の容量を大きくすることにより解決可能である.今後は,これらの知見をもとに,自己複製の系について適応していきたいと考えている.