表題番号:2011B-160 日付:2012/04/19
研究課題ラジカルポリマーの有機化学を基盤とする光電変換・蓄電物質の創製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 西出 宏之
研究成果概要
ラジカルポリマーが有機ラジカル電池の電極活物質を構成しうるとの発見とその分子化学の確立を起点として、電荷の分離・輸送・貯蔵に関わる複合機能制御や、分子レベルから界面およびバルクスケールまで俯瞰した高次構造制御により、革新的な光・電子デバイスを構成する有機分子群を創出した。特に、SOMOのエネルギー準位と状態密度の制御により室温大気下で充分な寿命を持たせた不対電子の関わる有機・高分子化学を確立した。高分子ならではの非晶質凝縮系を活用して、単一電子の振舞いに基づく高速電荷輸送、高密度での電荷分離とイオン対生成、光・熱・電磁場への複合応答など有機安定ラジカル種に期待できる諸物性を増幅し、斬新な光・電子機能高分子を創出した。特に、高出力特性を有する次世代ラジカル電池の創製に絞って推進し、試作セルの作成と動作実証を含め具体的データを集積した。
具体的には、室温大気下で安定なニトロキシドラジカル分子の電気化学的に可逆な一電子レドックスを二次電池の電極反応として着目し、p型およびn型活性の2種ポリマーをそれぞれ正・負極とした全有機電池のプロトタイプを試作、動作実証した。ラジカルポリマーの特徴に基づく高いエネルギー密度と、高速電子移動に由来するパワー密度をあわせ持ち、軽量かつ成形性にも優れる、他に類例のない電池特性を予備的に実現した。このような安定ラジカル種が関与する電子移動過程の確立を基盤として、革新的な「次世代ラジカル電池」および「ラジカル太陽電池」の創出を目指して研究展開し、SOMO関与の斬新な有機・高分子物性を開拓した。
(1) ラジカルポリマーの合成有機化学 ニトロキシドやガルビノキシルなど安定ラジカル種の性質を、従来確立してきた電極電位に対する応答(電気化学反応)に加え、有機分子としての基礎的性質を全容解明することを第一着手とした。これらと干渉しない重合開始剤や生長末端について知見を集積し、分子量制御、立体規則性重合、ラジカルブロック・グラフトポリマーの生成を可能とする精密重合を展開した。
(2) 非共役系での導電現象の確立と深化 ラジカルレドックス席を、その溶存限界を超えて高密度で含有させた非晶質ポリマーが形成する電解質膨潤ゲルが密集席間の交換反応に基づく優れた電荷輸送特性を発現するとの発見に基づいて、濃度勾配を駆動力とした化学反応の繰返しによる電荷輸送をマクロな導電現象として捉え、二次電池、色素増感太陽電池など湿式デバイスを構成する新材料を創出した。
(3) 安定ラジカル種の有機光・電気化学の確立 SOMO関与の光物理過程や電子・エネルギー移動などの光反応について、安定ラジカル種の化学の立場から追究し、有機光・電気物性の未開拓分野に挑戦した。有機分子の励起状態の多重度、電子遷移確率、光電子移動、励起エネルギー移動に対するSOMOの介在効果を切り口として、ラジカルの光化学的性質を調べた。これらを基に、色素共存下の増感反応、逆電子移動抑制による電荷分離界面の構築、高密度・長距離電荷輸送など、光電変換や蓄電に関わる知見を集積した。